へる酔ぃ

マン・オン・ワイヤーのへる酔ぃのレビュー・感想・評価

マン・オン・ワイヤー(2008年製作の映画)
4.5
Life should be lived on the edge of life 瀬戸際を歩いてこそ価値ある人生を生ける

この言葉、結構疑問です。

ワールドトレードセンターのツインタワー間にワイヤーを張り、綱渡りした大道芸人フィリップ・プティさんの話。実話、ドキュメンタリーです。地上411mの高さを命綱なしで渡るという無謀な挑戦の一部始終を過去の実際の映像と関わった人々のインタビューとを織り交ぜながら映します。映像が圧巻であるし、芸術的犯罪にワクワクドキドキしましたが、極端すぎるフィリップさんが少々苦手でした。興奮して身振り手振りの大きいフィリップさん本人がカメラに向かって嬉々と当時のことを語る一方で、当時の恋人や共に準備を進めた人々は感情の高まりを抑えながらも淡々と語っていた印象です。

映画ではメインディッシュの前にパリのノートルダム寺院とシドニーのハーバーブリッジが前菜として出されます。朝の霞みかかった街を背景に綱渡りをする写真は絵画のようで思わずハッと息を呑むほど美しいです。空中に寝そべる彼はまさに浮世離れしています。

興奮の収まらない映画ですが、最後の最後、WTCでの綱渡りの場面では背景に穏やかなサティのジムノペティが流れます。確かに夢を叶えた瞬間ですが、それは同時に夢の終結を意味しています。その事実を優しく包みこんでくれるこのジムノペティが強く印象に残りました。
警察に逮捕されたフィリップは達成感に酔いしれ恋人に対して大きな裏切りを犯します。この瞬間、喧嘩をしながらも試行錯誤した仲間との充実した日々が完璧に失われたのではないでしょうか(?)。それでも満足気なフィリップさんと似合わないクラシック音楽に何か皮肉めいたものに感じました。