『悪なき殺人』のドミニク・モル監督による昨年度のセザール賞受賞作品。
2016年5月12日深夜、21歳の女性が生きたまま焼かれる焼殺事件が発生。警部ヨアンを班長に地元警察が捜査に当たる。
「罪を犯すのも捜査するのもほぼ男性って変ですよね。男が人を殺し、男が取り締まる。男の世界ね。」※
監督の前作『悪なき殺人』がとても好みだったので、期待して鑑賞。
『殺人の追憶』や『ゾディアック』と同類の、実際に起きた未解決事件を題材とする良質な社会派刑事サスペンス。
テーマは"女性への暴行"事件及びその捜査の裏に潜んだ、"男と女の間にある溝"。事件から3年後の再捜査班に加わった女性捜査官の前述した台詞※に、本作の本質が凝縮されていたように思う。
スリリングな犯人捜し以上に、事件捜査に飲み込まれ、心を蝕まれていく捜査官達のドラマに重きが置かれていた印象🚵♂。懸命な捜査により、容疑者が次々に浮上するも、尽く空振りに終わる落胆、苦悩、重圧がひしひしと感じられた。
派手さはないが、現実味のある骨太な刑事ドラマ。捜査手順や、聴き込み・尋問シーンの会話内容、温度感がとてもリアルに感じられた。特に、刑事が被害者の母親に娘の死を伝えるシーンは出色の出来。ろう者に読唇による映像解読を協力して貰うシーンや、「相手以上にしゃべったら、逆効果だ」という刑事の言葉も記憶に残った。
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