xyuchanx

PERFECT DAYSのxyuchanxのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
空を見上げ微笑み、BOSSを飲んでカセットを鳴らしエンジンをかける。

こんなにやさぐれ感も無く知性と清潔感を感じさせるトイレ清掃員のおっさんがいるかは置いといて。毎日、浅草から渋谷まで高速で通うのか?というのも置いといて。

いずれにせよ、僕と同じくヴェンダース監督が役所広司に惚れてるのがよーくわかる作品だった。

明らかに青が好きなのに、植物のためにひと部屋割いて赤い植物育成用ライトをつけてる。木々のざわめきと木漏れ日に何とも優しく微笑む男。

足るを知る。質素でなんの変哲もないが、男にとっては完璧な日々。年取ると生活はミニマル化、ルーチン化していくものだけど、日常のイラツキをスルーし、小さな幸せに気づけるか否かという意味で、彼は達人の域にいる。

助演陣も豪華だが、カメラ屋の店主は先日妻が通訳した世界的な大作家さんのイベントを仕切ってた大学教授らしい。

ヴェンダース監督作品では定番のLou Reedによる「Perfect Days」をはじめ、当たり前ながらサントラの選曲も最高。さらに金延幸子の曲まで。

https://open.spotify.com/playlist/61jcvgXSGrrs65QAbJghI1?si=dUG18wvnTtK8BVGQP5pijw&pi=a-gAhNDIkNTve-

「どこにあるの?そのスポティファイって店」

僕もたまに散歩で寄る鍋島松濤公園など「THE TOKYO TOILET」プロジェクトで16人の建築家たちにリデザインされた渋谷区の公共トイレたちと、代々木八幡宮のベンチ。巡礼してみたくなる。

https://note.com/dj_gandhi/n/ne72fa5b70d4e

寝る前の読書に登場したのは二重小説の先駆「野生の棕櫚」、樹木についてのエッセイ「木」、「11の物語」など、ひとつも読んだ事ない本だったが興味深い。

ニコとの嬉しそうなやりとりや、妹との抱擁、父親や家族との確執を思わせる涙。

少し遠い話だが、日本も含めいまの先進国はほとんどが地政学的に恵まれたか、農耕による病原菌への耐性と、富の蓄積、それを奪い合う戦争を他の地域より早めに経験したがゆえに、後進国に対し優位に立てたわけで、それら先進国が撒き散らした疫病と、汚した地球の気候変動によって第三世界の国から順に割を食っている。逆の立場から見ればなんという不公平だろうか。

マイケル・サンデルの「実力も運のうち」で語られたように、世の中の成功と言われるものの殆どはたまたま生まれついた環境によるもの。世界の貧困とそこに至る歴史を知れば、自分が他人より努力したから今の地位にいるのは当然だなんて、とても俯瞰性のない利己的で浅はかな考えなのに。

さて、彼の実家はおそらく資産家か何かであり、彼自身もかなりの教育を受けた教養人である。ただ、彼の家族との確執などの過去、もしくは彼独特の価値観が、そこから最も遠い職業を選ばせたのであって、彼の幸せは他人の”普通”では測れない。

そんな彼にも少しだけ想いを寄せる女性がいたが…、ある日、思いもよらぬシーンを目撃。

ピースにむせる2人のオヤジ、そして影踏みのシーンもよかった。

「わかんない事だらけだなぁ。きっと、そのまま終わるんだろうな。」「影は重ねると濃くなる、何も変わらないなんてそんなことない。」


変わらぬルーチンの中で迎えた翌朝、ニナ・シモンの「Feeling Good 」を聴きながら、何かを吹っ切り、強く生きる意思のようなものを感じさせる。ここはNew Worldなのだ。


なんといっても、役所広司の、色々な感情が入り混じったような表情の長回しが、この作品のすべてだったな。感受性の豊かな人はあそこだけ観ても、色々と感じ入るものがあるはず。

あぁ、また「キツツキと雨」も観たくなったなぁ。
xyuchanx

xyuchanx