ナイトレイがムーアに彼女の普段使っている化粧品でメイクを施してもらう印象的なワンカット、そこではそのややケバケバしい赤い口紅が同化の象徴かに思える。確かによく使われるモチーフだが、しかし物語が進みムーアのパーソナリティが明らかになるにつれ浮き彫りになるのはその同化不可能性だ。そしてラスト付近のナイトレイがカメラに向かって演技を披露する長いワンカットでは、その“赤”は不可能性の象徴としてその鮮やかさを主張する。
基本的には“変身”(本作では“同化”)に使われる口紅のあり方を作品内でこのように変遷させるという発想はとても斬新で面白いと感じた。正直に言うとあまり乗り切れた作品ではないのだが、古色蒼然な作品を装いながらオールドファッションな意匠に新たな価値を付加せんとするこの一点だけでも支持したい。ヘインズ、新作がポシャったらしく残念。