ホーコ

落下の解剖学のホーコのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

目撃者のいない落下事故の色んな原因説検証サスペンスミステリーかと思いきや!良い意味で裏切られた。
事件の原因究明が次第に夫婦関係の解剖になっていく構造が見事。J-8に座ったつもりが着席していたのは裁判傍聴席でした。
印象に残ったのは2つ。
1つは精神科医の証言に対する被告人の反論。第三者がその立場から見ている情報だけで、その事柄すべてに対する判断や評価をすることがいかに愚かで当事者を傷つける行いであるか。
この精神科医で言えば、彼が言えることは自身から見た患者の様子や診断根拠くらいで、患者の被告人に対する感情をあたかも代弁したり、二人の関係性を評価するのは明らかに出過ぎた真似だった。
そういえば最近似たような経験をしてとても嫌な思いをした。自分のことも顧みないといけない。あらゆる事象に対して自分が関係する範囲とそうでない範囲との境界線に自覚的であろうよという気づき。
2つめは結論に迷うダニエルに対してケア役の女性がかけた言葉。こういうハードな裁判で証言を求められる子供をケアする職業って日本にもあるんだろうか。ダニエルの証言が判決にどこまで影響したかは分からないが、難しい立場に追い込まれた幼いダニエルに適切なケアが提供されていることがわかる描写は、作品に丁寧さと一定の正確さをもたらしていてとても良かった。
「彼女に罪があるとすれば、それは彼女だけが成功したことです」の台詞に、「夫婦は片方が幸せになるより二人とも不幸でいたほうがずっといい」という皮肉を思い出す。コミュニケーションを放棄した果てには自分のヒステリックな喧嘩の録音を赤の他人と冷静に聞き直す地獄が待っているという、これも一つの教訓ですね👍
大音量の音楽や何気ない会話にすら見えない無数の事情が積み重なっていること、その積み重ねの中で偶然生まれた綻びから他人がずかずかと侵入してくる不快さ、生活を他人に解剖され人目に晒されるグロテスクさに2時間半釘付けになった。どうなる脚本賞!
ホーコ

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