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少年、機関車に乗る 2Kレストア版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 金属製の煙突が見下ろす埃だらけの街。この街でファルー(フィルス・サブザリエフ)は危ない仕事に手を染めている為、弟とは暮らせないと思い立ち、遠くに暮らす父の元へと弟を預ける決心をする。最初に友達に渡したのがどうも爆弾だったらしく、施設に投げ込むのも最初は爆弾かと思ったがそうではないらしい。ここは何らかの刑務所で、ファルーたちは服役中の仲間にハシシや酒を放り投げているのだ。しかし物音ですぐバレ、彼らは一目散に逃げ帰る。ファルーはこんな日常を繰り返す。学校に弟アザマット(チムール・トゥルスーノフ)を迎えに行ったと思えば彼は赤点を付けられ泣いている。その答案用紙に火をつける兄の行動も凄いが、その後の貧乏な部屋で深夜起きた弟がプランターの土を無心で食べだしたのには何度観ても爆笑する。夕ご飯を食べたのにまた腹が減り、食料ではない土を食べる。アザマットのあだ名「デブちん」の由来も恐らくここにあるのだ。一緒に暮らす祖母を一人残し、兄弟は機関車に乗って父の住む僻地へと向かう。物語はただシンプルにそれだけ。兄弟の珍道中であり、おそらく弟にとっては人生で初めての小旅行なのだが、映画はタジキスタンの見渡す限りの平原の中を進んで行く。母親のイヤリングを服に飾るファルーの姿が愛おしい。まるでこの旅を母親にも見届けて欲しいと思っているかのようだ。

 タジキスタンを出発し、アフガニスタンとの国境沿いにある街へ。映画は何の説明もしない。車が機関車と並走したかと思えば、停車駅ではない町に突然降りたり、ポットとやかんを持つおじさんが絨毯と交換したり、上から子供たちの投げる石に襲われたりとまぁとんでもなくやりたい放題である。戦後の日本とは決定的に何かが違う。だが女の人が2人乗って来た時、兄のキスをせがめの言葉に突然もじもじし出す弟が実に可愛らしい。かと思えば降車したお姉さんの後を付けて行って怒られる有り様。旅の工程に訪れるべき場所がなく、同乗する人々との細やかな思い出や出来事がぶっきらぼうに描写されて行くだけ。兄の為にお椀にお茶を継いでくれたり、意外と殊勝なところも見せる弟の健気な姿。そうこうしているうちにインド映画の野外上映会でのフィルムの焼き付きからの観客の怒号を抜けると父の家が見えて来る。弟アザマットはおそらく、父の顔を知らないだろう。兄貴も最初はおどけたような態度を見せるのだが、父が愛人と暮らしている様子を見ると、複雑な心中を見せる。だからと言って映画は青年と父親とを盛大に仲違いさせたりしない。父親への反発がありながら、弟を送り出す手前の葛藤もあるだろう。父に頼み込み、この街で暮らした方が豊かな生活にありつけるのかもしれないが、彼の自立心はそれを良しとしない。どこまでも牧歌的な風景の中、兄弟はこの旅を経て一回りも二回りも成長する。レストア版も綺麗にし過ぎていないところが良い。シンプルに良い映画である。
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