このカフェに来るのはいつも一人の時。
誰かを連れて訪れた事は一度もない。
なぜならここが絶妙にイケてないからだ。
その原因は恐らくマスターのセンスによるものと思われる。
おしゃれカフェにすべく試行錯誤を繰り返すものの、あいにくセンスがカケラもないので残念な事になっていた。
久しぶりの入店。
仄かにコーヒーの香り漂う店内に入り所定の席につく。
壁ぎわの書棚にはカイジとアカギが全巻コンプリートされ、カウンターの上のペプシマンがこちらに向けてジュワーッとビームを発している。
入口付近に下げられた風鈴が、BGMのカーディガンズに合わせて時折季節外れの音色を聴かせてくれる。
念のため言っておくがこれは2017年2月の話だ。
メニューにはパンケーキが新たに加わっていた。
変わらないと思っててもこうやって少しずつ変わっているんだな…としばし感傷に耽る。
再度メニューに視線を落とすと、ホットケーキの文字の上からパンケーキと書いた紙が貼られており、色褪せたホットケーキの写真が貼られたままだった…。
そんな店の中でも一際強い存在感を放つのが、壁に架けられた「タイタニック」のポスター。
繰り返すが今は西暦2017年。
一体どこの世界にタイタニックのポスターを飾ったおしゃれカフェがあると言うのか。
一周まわってオシャレなんて思わせない絶妙なチョイス。ちょうどいい湯加減のイケてなさ。
入口から見えるタイタニックを目にした者の大半はUターンを決め込んでしまう。
異様なバイブスで満たされた空間。
MacBookと女子会が最も似合わないカフェ。
逆にこの店が、私を含む世間のハミダシ者達から根強い支持を受けているのもまた事実である。
そこで突然事件が起きた。
マスターが壁際の椅子に乗りおもむろにポスターを外しだしたのだ。
傍らには丸められた一枚のポスター。
なんとポスターの架け替えに遭遇したのだ。
やはり変わらない物など無いのだ…。
ポスターが一新し、おそらく次来る時には風鈴は外され、ペプシマンが北欧雑貨に変わり、福本伸行コレクションがアート系写真集に変わっているだろう。
また一つ我々の居場所が減っていくのか…それも仕方ないことだ。
一抹の寂しさを覚えながら架け替えられるポスターを眺めていた。
果たして何に変わるのだろう?
ふと嫌な予感がよぎった刹那、新しいポスターが架けられた。
「SEX AND THE CITY……」
こんなに印象の変わらない模様替えがこの世に存在するのか。
変わらないものってあるんだな…。
BGMはいつの間にかマライアキャリーに変わっていた。
(完)