坐禅マニアのフリーターの私信

乱れるの坐禅マニアのフリーターの私信のネタバレレビュー・内容・結末

乱れる(1964年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

素晴らしい作品だった。激動の東京を出汁にして、男女の不可能な恋愛を描いている。その素材の使い方がいいんだよ。変わりゆく街に執着してノスタルジックに描くんじゃなくて、あくまで諸行無常のなかで、終わりある男女の恋愛を普遍的に捉えようとしている。

義理の姉と弟の恋。高峰秀子は亡くなった夫を想い、加山雄三は未来を向いている。過去に生きる女と未来に生きる男の不可能な恋愛が成就するには、「現在」しかあり得ない。その特権的な時空が、山形へ爆走する電車だ。世間を超越し、時空間を乱れに乱して、二人の微笑みは愛の純粋形になる。

さて、どんな列車にも終点があり、どんな幸福な時間にも終わりがある。それを直前の駅で降りることによって回避した二人。山形の温泉宿に籠城する。そして・・・ラストが衝撃的だ。加山は一人で帰ろうとして崖から落ちて死ぬ。はたして高峰は、愛する男を失ってしまったのだろうか?いや、ぼくは彼女は彼を永遠に手に入れたのだと考える。彼は下界に降りることによって妻子を作る機会を奪われたのだから。彼の手に結んであげたヒモ・・・それは二人の結婚指輪だ。それは生死を超越して二人を結びつける・・・彼女の愛であり呪いである。

というわけで、現実の不可能を越えた先に情念や呪術の世界が開けてきたという点で、新たな領域を感じる作品だった。