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乱れるのほーりーのレビュー・感想・評価

乱れる(1964年製作の映画)
4.3
これを最初に観た時はショックだった。同じ成瀬巳喜男監督の『浮雲』や『流れる』を観た時も印象に強く残りはしたが、ショックというレベルではなかった。
 
『乱れる』は新興のスーパーマーケットによって揺れ動く商店街を舞台に、ある酒屋の未亡人と義理の弟の禁断の愛を描いた傑作。
 
脚本は主演の高峰秀子の伴侶・松山善三。
 
激安を売り文句に集客をのばすスーパーマーケットに商店街の人々はなす術がなくついには自殺者も出る始末だった。
 
しっかり者の主人公・礼子(演:高峰秀子)は戦死した夫が遺した酒屋の再建を女手ひとつで尽くしてきた。一方、亡き夫の弟の幸司(演:加山雄三)は就職した会社を辞めてしまい毎日遊び呆けていた。
 
ある日、義妹の久子(演:草笛光子)は礼子にそろそろ家のことを忘れて再婚して自分の幸せを見つけたらと言う。内心は血のつながった幸司に店の経営権を委譲したいという思いがあったからだ。
 
だが幸司自身は今まで酒屋や自分たちの為に十八年も尽くした義姉を追い出すことに不満を抱く。

実は幸司は久子のことを恋心を抱いていたのだ。思い切って久子に告白する幸司だったが……。

前半のスーパー台頭によって商店街が戦々恐々とするくだりから始まり、後半は義弟からの愛の告白で心揺れ動く女の心情を描き、そしてラストシーンにショックを受けた。

そして際立っていたのは勿論、高峰秀子の演技。最初は気丈に振る舞う高峰秀子も加山雄三からの告白以降、心が穏やかではなくなる様が実に自然にそしてほのかに色気を漂わせて演じている。

高峰が列車で故郷に帰るシーン。最初は後からついてきた加山を避けていたが段々と距離が近づき、高峰の表情も自然と変わっていくのが印象深い。

加山雄三は前半は当時の若者らしく軽薄な台詞回しだが、後半からグッと締まった芝居をする。

お父さん共々あまり巧くない役者さんの代表格にされているけど、『赤ひげ』や『乱れ雲』も含めてこの頃の加山さんは役者として脂がのりきっていると思う。

それにしてもあのラストの高峰秀子の表情を思い出すだけでも胸がつまりそう。

■映画 DATA==========================
監督:成瀬巳喜男
脚本:松山善三
製作:成瀬巳喜男/藤本真澄
音楽:黛敏郎
撮影:安本淳
公開:1964年1月15日(日)
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