なべ

ボーン・スプレマシーのなべのレビュー・感想・評価

ボーン・スプレマシー(2004年製作の映画)
4.7
 あああ、手に汗握りまくり。知ってる話なのにめっちゃドキドキしたー。ストーリーは400字詰原稿用紙1枚で足りるくらいなんだけど、その分アクションの出来が前作とは桁違い。スプレマし過ぎる!
 もう全編ずっと追われてるから。追いかけられて追いつめられて、それでも追われて、ところどころで逆に追うというね。でも大丈夫。逃亡スキルも追跡スキルも何もかもボーンの方が上だから。そしてボーンの手にかかればその辺にあるもの何でも武器だから。雑誌やら時刻表やらトースターやらトースターやらトースターやら!トースター爆弾のシーンがどれほどカッコいいか。観たことのない人はこのシーンのために観て!
 ボーンは自分を殺すためにCIAが動いていると睨み、パメラ・ランディは作戦を失敗に追い込んだ犯人がボーンだと思ってる。この対立構図が変化していくのが本作の味わいどころ。追走劇のなかにあって、対立するベクトルが徐々に変わっていくのがおもしろい。それもこれも作戦の指揮をとるパメラが頭いいから。捜査のなかで違和感を感じる表情が実にいい。言葉に出さずに、ちょっとした表情で状況の変化を感じさせる作品は大好き。アクションにかまけて、セリフですべてを説明してしまうバカ映画が多いなか、言葉少なに事態を推進させる演出のなんと力強いことか。こういう話は敵が賢くないとつまんないけど、パメラ役のジョアン・アレンがすごくいいのだ。立ち振る舞いがいちいちリーダーのそれだし、育ちの良さや地頭の良さもそこはかとなく感じさせる。彼女の抑えの効いた演技がボーンシリーズのリアリティを下支えしているよう。

 追手の追及をかわし、追われる理由に迫り、犯人を特定し、CIAの陰謀を暴いて情報修正させるって、ボーンつよっ!かしこっ!でも例によってマット・デイモンは地味だからニヤリともしないよ。トム・クルーズならドヤ顔必至なキメどころでも無表情で足速に現場から去る。かっこよ。

 最後はモスクワでクライマックスなんだけど、その目的が切なくて、ボーンおまえ…ってなる。散々アクションでハラハラさせておいて、最終的な着地点がそこかー。しんみり。雪の積もった白い世界をとぼとぼと歩く後ろ姿が小さくて頼りなさげで抱きしめたくなる。

 パメラに電話して、「少しは休め。疲れが顔に出てる」からのハッと窓の外を見た瞬間に流れるモービーの主題歌。キュイーーンキュイーーンなこのタイミングだけはドヤ感があるけど許す。
 どういうわけかこのイントロを聴くとアルプスのマッターホルンなんかの雪山が浮かんできちゃうんだよな。何か刷り込みがあると思うんだけどわからない。そんな風に感じる人いないかな?

 ギリギリの状況でも臆せず怯まずアイディアを見出すプロの手口の鮮やかを見てほしい。トレッドストーン計画のナンバーワンの動線の短いスピーディな仕事ぶりを堪能してほしい。使えるものなら何でも使い無駄なく優位に事を運ぶDIY逃走劇・ボーン・スプレマシーをどうぞよろしく。
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