思春期の複雑な感情だよなぁ…。
サッカークラブで唯一の女の子。周りは彼女とも仲が良くて、男女としての雰囲気はないけれど薄っすら気遣いが見て取れる。他の子にはお金やるから川に入れよって笑い話をしている時に彼女にはシャワーもう入った?と訊いて強要するような言葉は言わない、とか。
そういう微妙な態度の違いを彼女がどう思っていたのかは分からない。気付いていないのか、気付いていてなにも言わないのか、そんな扱いをして欲しくないのか、そのままで良いのか。
サッカークラブにいい選手だって触れ込みでもう一人女の子マーラが入ってくる。
セレーナは彼女の上手なリフティングや、自分はスポーツブラだけれど彼女は普通のブラをつけていたりする様をそっと覗き見ては話し掛けるマーラにそっけなく接する。
男子たちはマーラのプレイを褒めるし、テーブルサッカーでも彼女が参加した途端に良い所を取られてしまう。
隣の男子更衣室ではマーラの胸のサイズについて話しているのが聞こえてきて、まだ胸の成長していない彼女は複雑な表情。まだブラのいるサイズじゃない感じかなぁ。スポーツするならマーラも普通のブラジャーじゃない方が良いと思うんだけどね。
コーチは今までペアだった男子ではなく、マーラとペアで練習をするように言われて反発。
マーラが折れて別の男子とやるから…と言って去った後ろ姿、短パンが整理の血で汚れているのを大きな声で指摘する。
その帰り道男子たちはその事で笑い合い、不機嫌なセレーナは無言で一人去り、空き地で草を蹴る。
それからまた男子の雰囲気が変わり、別の男子を押してマーラにぶつけさせたり、シュートを失敗したマーラの隣で短足だし生理中だ、マーラが伝染るぞ、体操かバレエをやれ、サッカー以外をな と笑い合って話す。
それを聞いていたセレーナに蹴る順が回って来るが、その男子生徒に向けて蹴りボールをぶつける。
コーチに叱られてコートの外で凭れ掛かっているセレーナ。マーラが頭が冷えたら戻って来いってと言いに来るけど、冷えてない と返す。
でもすぐに思い直してボールをぶつけた男子に大丈夫?と尋ねて中指を立て合う。
そして誰もいない食堂?の隅っこで一人テーブルサッカーを弄っているマーラに近付き、何も言わずに一緒にプレイして笑い合う。
これを…この感情になんて名前が付くのか、そして詳細に説明せよと言われも出来ないこの気持ち…を上手く表現出来ていたと思う。
唯一の女子で、でも周りと上手くやっていたのに新しくサッカーが上手いと言う触れ込みで女子がやって来たら複雑な気持ちになるのは…女子の半分くらいは理解出来そうな気がする。逆に男子にもこんな気持ちがあるのかなぁ。
嫉妬、と一言では言い切れない…なんだろうなあ、自分の居場所を削り取られるような。空気が変わってしまう事への恐れと嫌悪と言うか…。
最初から気持ちよく受け入れる事が出来る人への憧れがある。そういう人もいっぱいいるのよね…人としての器が違う。そもそも人見知りだし、まずぐふっ…てなってしまうわ。
でも自分がそんな風な態度を取った事で、更に仲間内の空気が変わってしまう。最初はセレーナの事を女子として気負わせない程度の気遣いが出来ていたのに、マーラにはそうしなくても良い、軽んじても良い みたいな空気になってしまう。
そうしたのは自分で、自分の居場所を守る為にそうした訳なんだけれど、そんな自分にも腹が立ってしょうがない…場面があの草を蹴るシーンかなって。
今までと変わっていく事に腹を立てて皆の前で辱めたのに、自分の上手くやれなさ、やり方の汚さ、それに便乗する男子たち、色んなものに腹が立って、でも一番悪いのは自分。マーラはただサッカーがしたくてクラブに入ってきただけだし、嫌な事なんて一つもされていないのに。
その翌日、女子更衣室の前でマーラが中にいるかも知れないって一瞬の戸惑いの気持ちもよく分かる。
結局自分のそういう醜い部分とかどうしようもない事とか周りの変化とか、そう言ったものを受け入れて、諦めて、認めていって大人になるって事なのかしらね…。最後にマーラと一緒に遊んで笑い合えたのは間違いなく少し大人になったからだと思うし、それを受け入れるマーラは最初から少し大人だったんじゃないかなあ。
自分がマーラの立場だったとしたらあそこで笑えるのも凄い、と思うけどもね…。
もうすっかり大人なのに自分の器の小ささを突き付けられる作品でもあったな。
最終的に、人付き合いって面倒だよね に収束してしまわないと良いなあ。