ノラネコの呑んで観るシネマ

このろくでもない世界でのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

このろくでもない世界で(2023年製作の映画)
4.3
クソみたいな環境で育った少年ホン・サビンが、ひょんなことからソン・ジュンギ演じる地元の裏社会のリーダーと出会い、次第に義兄弟のような間柄になってゆく。
いわゆる青春ノワールの一編で、心に闇を抱えたアニキは少年の中に、かつての自分を見ている。
登場人物は全員、韓国で言うところの土匙階級で、周りを見渡しても何もかもがろくでもなく、全く希望が見えない。
まさに英題の「Hopeless」がピッタリの状況だ。
主人公は、皆が平等だというオランダに、母親を連れて行くことをだけを夢見ているが、アニキは「そんな場所は無い」と言う。
これが長編デビュー作のキム・チャンフン監督は、荒々しいタッチで物語を紡ぎながら、架空の街の最底辺で足掻き続ける人間たちを、リアリティたっぷりに描く。
ここには負のスパイラルは無く、最初から全てが負に染まっている。
この暗闇の世界で、唯一の可能性は「若さ」だ。
かつて父親とのある出来事によって、心が死んでしまったアニキにとって、まだ堕ちきっていない主人公の少年は、ある意味IFの自分であり、ほのかな希望なのだ。
ホン・サビン、死んだ魚の目をしたソン・ジュンギ、主人公が唯一痛みを分かち合う義妹役のキム・ヒョンソ、軸となる三人のキャラクターを演じた役者たちが、皆鮮烈で素晴らしい。