こたつむり

アポカリプトのこたつむりのレビュー・感想・評価

アポカリプト(2006年製作の映画)
4.3
族長(オサ)ッ!族長(オサ)ッ!

「すげー」と口をあんぐり開けてしまうほど。
ただひたすらに圧倒される作品でした。

まず、題材からして挑戦的。
“マヤ文明に生きる一部族”の物語なのです。
しかも、劇中の大半はジャングルが舞台ですからね。都市部で撮影するのとは話が違います。これは並大抵の意気込みでは作れません。

また、画面の隅々まで満ちた実在感。
密林の雰囲気だったり、瀑布の迫力だったり、マヤ文明で栄華を極めた都市の描写だったり。細部にも拘りながら、圧倒的迫力を損なわない…なんて「二兎を追う者は一兎をも得ず」の原則から外れた描写力なのです。

そして、その圧倒的な筆力をもって。
「これでもかッ!これでもかッ!」と押し付けてくる熱量。それは“生きる”ことを表現した魂の叫び。物語の構成としては“捕まって逃げる”という単純な直線運動なのですが、エネルギーに満ち溢れているから思わず圧倒されるのです。

だから、もうね。敬服の念しか抱けません。
色々と物議を醸す言動が目立つメル・ギブソン監督ですが、作品に限って言えば別の話。しかも、娯楽作品のツボを心得ていますからね。文句の付けどころなんて無いのですよ。

ただ、それでも難を言うならば。
細部まで拘る筆致ゆえに物語運びも丁寧なので、カタルシスを味わえるまでが長いのです。しかも、苛烈な暴力表現が生み出す臨場感ですからね。ずっと手に汗握る展開が続くのは…正直なところ、疲れますよ。

逆に言えば、没入感が半端ないのですね。
何しろオープニングからして、キャスト名もタイトルバックも表示されません。いきなり当時の南アメリカ(しかもジャングルの中)に放り出されたような気分なのです。

まあ、そんなわけで。
ひたすらに圧倒される140分。
馴染みが薄い土地の物語なので鑑賞前のハードルは高いと思いますが“コテコテ”の料理が食べたいときにはお薦めしたい作品です。

それにしても。
マヤ文明という舞台設定、“英雄不在”の物語、激しい暴力表現、有名な俳優は一人もいない…という条件で出資した人たちも肚が座っていますよね。ハリウッドの本気を見た気がします。
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