ニューランド

逃げる女のニューランドのレビュー・感想・評価

逃げる女(1950年製作の映画)
3.4
✔️🔸『逃げる女』(3.4)🔸『海の狼』(3.6)🔸『夜霧の港』(3.4)▶️▶️

 TV放映版は全長なれど上映プリントは短縮版しかないのか、それでも3~40年ぶりかに三見したい大傑作の肝心作を、前の会場の、映画祭のせいもあるのかランニングタイムにミスがあり、次の1分でも遅れたら入れない所に、正に1分遅れで入れず、他の会場で何をというのが思いつかず、仕方なくこれ『逃げる女』を見る。日本最高本数鑑賞者の方が珍しく興奮して映画の手本だと延々ディテールを喋ってたのを思い出したからだ。その人は長回し嫌いでカットは細かい程いい、でも小津は嫌いならしいが、当にそういう映画の醍醐味に集中してる人にとっては、最良の手本的映画だ。
 ヒッチコックの『めまい』的シチュエーションとラスト辺のそっくりオチ、『北北西~』的な巻き込まれやフラフラ係わりキャラらの、イノセントな・空間とアクション行き来彷徨アップダウン作だが、何か小難しい『めまい』等より当時も受けたのではないか。面白さに徹している。
 皮肉なナレーション、締まり・揺らぐ陰影や、深い縦や仰俯瞰の構図、フォローや主観や前後左右廻る効果移動、がっちりセットとミニチュア・Sプロセスと・ロケの雄大滑らかドッキングなど、完璧で、何より空間出入りや寄りや切返し角度変のタイミングや説明の敢えて欠落イッキ叩き込み流れと不意の連続が、知らぬ内に引き込む。主演2人の表情や反応の無垢さと巧みさがそれらに支えられてく。
 町の歴史と一体化の工場の乗っ取りを計り、自分を警戒するその老所有者を殺し、何も知らず不安な娘と結婚へ持ってく工場責任者。が、愛人が現れ腹いせ暴露し、怖さで逃走を図る娘。車事故死に見せる罠、死体探し、生きてたらと賞金、その情報に跳び回り、生存が分かると(全権奪いが必要な為)精神病院行きへ工作、証人の愛人が突き止められると逆に引き込み、機械室へ閉じ込め事故死狙い、の悪魔的絡め途切れず。証人がいる町の、新聞ら売り場の雇われ風流男。娘に関心、正体にも気付き動くが、夫婦の各々言い分~女は正気か否か~に振り回され、最後になって彼女の側にはっきり付く(理想郷の入江で新夫婦へ)。
 毎日、定年過ぎて年間千本超えて映画に浸っている人にはその流れにぴったり嵌まり拍手ものの出来だろうが、仕事などで揉まれてると、やはり表面を食い破るベース押さえ強さは、も少し欲しくもある。
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 後、ルピノ出演作では、港や海洋絡みの2作を観ていた。『~狼』。ルピノは、いかがわしい過去を持ち、逃亡中か、自殺未遂の女を演じ、主人公に救われ結婚の幸せに至(りかけ)る役。両作ともにT・ミッチェルが作品の隠された真実の鍵を握って作品の方向を変えてく、小悪党の役を演じてるが、中途で自滅してく役を演じてる。この頃ノリに乗ってたカーティスの腕を確かめたくて観た『~狼』は、流石に大作なれど、ガタイがでかいだけではない、作品世界・スタイルが見事に華々しく張り出しながら、統一的でシャープで魅惑的世界を創っている。東宝戦記ものの巨大プールをものともしないスケール、ミニチュアもスモークら絡みリアル、カメラワークや仰俯瞰ら必要存分多アングル構図自在叩き込み、カメラ傾けや水量も存分に、照明・光と影引き締まり深み、知的会話やシチュエーションの用意周到、特撮と分厚く広いセットの差異ないベースの艶と格、これには文句ない。
 犯罪や執筆の重責から逃げてる女と男、皆が怯む船に潜り込む。案の定懸念の幽霊船らしきに蹴散らされ、2人だけが収容され、知性と病を隠してるが、神秘的で強権で全てを仕切る、怪物的船長に出会う。盗った品を捌きに、兄から逃げつつの背景があった。男は女に輸血もし将来を誓い合うが、船長の兄に見つかり沈む船で、女だけが脱出、男は船長の死への道連れとなる。
 カーチスはやはり一級。と勝手に納得。
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 『~港』はラング監督でスタートの企画らしくせっかくと観たが、序盤の陸の店等は厚みと格があり、しっかり作り込んであるが、酩酊状態の歪み多重撮影も含め、後は艀の小屋や船他が柔らかく直線的に描かれてる。その中から関係や位置の凄みも膨れ上がってはくるが。好感は持てるが、まぁ、ラングのクラスではない。場や設定を限り、すっきりフックラ、時に力強くは極めて観てて心地いい。
 流れ者のフランス人が、自殺せんとしてる女を助け、それまで彼の小判鮫的にくっついてた相方が、流れ者が酔った時殺人などを犯してきた後始末をしてやってたと自分必要説得力か脅しで、1ヵ所に留まらなかった事が判ってくる。しかし、流れ者は彼女と結婚し落ち着く気になり、相方のウソも暴かれて、やがて排除してく。ギャバンはフランス時代の、暗さをミステリアスに抱えてる風で、基本かなりストレートな役だが親しんだデュヴィヴィエ・カルネ・ヴェルヌイユ・ルノワール作らでの根っこがなく、ドロンと同じでやはりアメリカ映画にはしっくりはこない。が、あまりアメリカのスタンダードでもないルピノとはそくそくとくるものが生まれてく。
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