福福吉吉

月の福福吉吉のレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
堂島洋子(宮沢りえ)は過去に東日本大震災を題材にした小説で有名になるも、それ以来小説が書けず、重度障がい者施設「三日月園」で働くことになった。洋子は三日月園で働いていくうちに障がい者に対する職員の虐待に心を痛めるようになる一方、同僚のさとくんの障がい者に対する考え方の歪曲化に怖さを覚えるようになる。

◆感想◆
原作小説は読んでいません。

小説家の女性が重度障がい者施設で働きながら重度障がい者に関わる人々の欺瞞と本質に翻弄されていくストーリーとなっており、物事に対してやたらと「嘘」を嫌う人物たちが極端に自分の正当性を主張する姿がなんとも嫌悪感を抱かせるものがあり、重度障がい者に対してどう接するのが本当に正しいのか分からなくなりました。

堂島洋子は小説家として有名になるも、3歳の息子を心臓疾患で失った過去があり、夫の昌平(オダギリジョー)とともに心を痛めていて、夫婦仲は良さそうなのですが、どこかぎこちなさを感じ、また、昌平が売れない映画を制作し続ける部分も洋子を苦しめているように感じました。洋子は家計を支えるために三日月園で働き始めるのですが、多くの心配事を抱える洋子が重度障がい者施設で働こうとする姿に無理があるように感じました。

洋子の同僚として陽子(二階堂ふみ)とさとくん(磯村勇斗)がいるのですが、これがまた極端な個性の持ち主で、陽子は洋子のように小説家として有名になりたいという野望があるのですが、有名な洋子に対する妬みが強くあって、きれいごとを嫌う陽子の性格は棘があり過ぎて嫌悪感を抱きました。そして、本作のキー・パーソンであるさとくんは最初は障がい者たちのために手作りの紙芝居を用意する良さげな人物だったのですが、次第に意思疎通のできない障がい者を無駄なものだと切り捨て始めます。さとくんは様々な理由をつけて障がい者を排除しようと考えるのですが、その心理の奥底には彼の殺傷に対する欲望や嗜好があって、それ故に何を言っても心に響かないものになっていました。さとくんという人物造形が優性思想という過去の遺物の権化となっていて、私には彼に対して嫌悪感しかなかったです。健康に生まれた人間が障がいを持った人間より上だと考えるそののぼせ上った脳みそにサーベルを突き刺してやりたいと思いました。

洋子はストーリーの中で新たな命を宿すことになるのですが、そこで生まれた子供が障がいをもって生まれてくることを恐れ、夫に打ち明けられず悩み続けます。障がいを持って生まれた人に対する命の重みと実生活の困難さといった現実と向き合う作品となっていて、誰一人正しい答えを持たないことだからこそ、それを深く考える必要性を感じさせるものがありました。

かなり重い作品となっていて、観終わってかなりしんどく、扱っているテーマが重いからこそもう少し明るさを持たせて多くの人に観てもらいやすい形にならなかったのかなと思いました。しかし、本作の提起する問題の重さは確かに伝わってきて、明るさを排除することでその深刻さを感じる部分もあったので、これは人によって評価が分かれるように思います。私は本作を人に自信をもってお勧めできませんが、観たことについて一切後悔は無く、考える良い機会を貰ったと思います。

鑑賞日:2025年4月27日
鑑賞方法:Amazon Prime Video
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