ルイまる子

甘い人生のルイまる子のネタバレレビュー・内容・結末

甘い人生(2005年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

My all-time favorite movie.

「甘い人生」とは反語。酷い人生ということ。又は甘い人生を決して許されなかった男の人生。

いや、これだけいろんな映画見て来てこんな佳作(駄作?)が一番好きなの?しかも韓国映画?と思われるだろう。確かに作りは甘い、しかし心を打つという点ではかなりの映画。

イ・ビョンホンのプロモーションビデオと言われた本作は筋も特にあるとは言えず、バイオレンスに次ぐバイオレンス。殴る蹴る血しぶき、天井から縄に吊るされる、土の中に生きたまま埋められる、脱出、復讐。拳銃を買いに行く、拳銃を売るアホバイヤーの描写がやたらに長い(意味がない。。。と当初思ったがよくよく見るとここで弛緩させてるんですね。それ以外が息を呑むほどハードなのでどっかで休憩させなきゃいけない。。。監督上手いな!)次々そこに居る人やたらめったら殺す。しかし主人公は少年の頃からボスに忠義を尽くすヤクザ組織の一員で、一体なんでここまで酷い目に遭わされなきゃいけないんだ、その動機付けもあまりにも「子供の喧嘩」レベル(どれだけ深く解釈しても親分の男が子分の男を嫌悪する「白いシャツに一点のシミがあった」だけ、それ位の理由で殺す。又は親分さんはイ・ビョンホンが好き過ぎて?女に好意を持つなど許せずに抹殺したのか???←毒され過ぎ笑)。でも、ここまで孤独で美しい映画はちょっとないです〜

イ・ビョンホンがあまりに素敵過ぎる。

「あしたのジョー」を初めて読んだ時の感動みたいな感じでしょうか。

一番好きなシーンは最後のタイトルバック。大都会のビルを見下ろすホテルの窓ガラスに映る自分の姿に向かってボクシングするところですね。あと哀愁のギターの音色、しかし出し惜しみのように殆どこの名曲は流れない。今でもメロディーすぐ歌えるくらい好きなメロディー。

序盤のシーン。後ろから煽り運転してきた若い男をとことんまで追い詰め、漢江の脇で止めさせ、めちゃくちゃに殴り、その車のキーを漢江に投げ捨てる。このシーンは男を全て語っていたし美しかった。(今日本で問題になってますが、イ・ビョンホンでソウルが舞台なら美しい、と言えるシーンだ)。孤独な一分のスキもない男は強靭な肉体と回転の速い頭と研ぎ澄まされた感覚を持ち成り上がってきたし自分だけを頼りに生きてきた。一分の妥協もないからその辺のチンピラなどが自分に煽り運転するなど決して許さない。映画やドラマの手法として色々な説明する映画があるが、そういうのは一切要らない。このシーンだけでこの男がどんな男かを語ってる。

孤独な一匹狼の男がほんの微かに心が動いたシーンがある。親分の愛人の音大生がチェロを演奏する。送り迎えを頼まれている男は彼女の演奏を見る。聴いたこともないような美しい音楽と彼女の姿を見つめるイ・ビョンホン。ビシっと着たスーツの背中ごしにカメラが頭と首だけを映す、その後、笹の葉がさわさわと揺れるシーン。すぐに次のシーンに移る。

最後の最後にこの種明かしが出て来る。それは彼の正面の表情だ。あーーー微笑んでいた!

孤児で誰を頼ることもなく必死に生きてきたホテルマン(実は殺し屋)、は短い人生の中で微かに心を動かしたこともなかった。当然恋などしたこともない。しかし、ほんの微かに心が揺れたあの瞬間。それは生まれて初めての恋だった。でも酷くもその一瞬のお陰で。。。人生が絶たれるとは。。いやこの上無いほどに中二病的ストーリーですし、駄作だと思われる方も多いと思う。なのになんでここまで心を掴むのか。イ・ビョンホンの作品は全部好きですが、本作は特に好きです。彼の演技の素晴らしさ。思っていること全部目に表れている。哀愁ある孤独な男のダンディズム映画。85歳の母が本作が大好きで一緒に鑑賞。このDVDを棺に入れてあげなければですね笑
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