ノラネコの呑んで観るシネマ

RED ROOMS レッドルームズのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

RED ROOMS レッドルームズ(2023年製作の映画)
4.3
フレンチカナダのモントリオールで、3人の少女を殺害し、その動画をレッドルームと呼ばれるダークウェッブで売ったとされる、シュヴァリエという男の裁判が始まり、ケリー=アンという一人の女性が熱心に傍聴に訪れる。
どうやらファッションモデルをしているらしい彼女は、専門家レベルのインターネットスキルを持ち、事件の被害者家族の情報を集めてゆく。
25分にわたる検察、弁護双方の冒頭陳述がノーカットで描かれ、事件の概要は開示されるのだが、その後裁判劇になるのかと思ったら、裁判自体の描写はあまり無く、裁判とは別角度から事件を追い続けるケリー=アンを描いてゆく。
途中容疑者の熱烈な支持者である少女クレムを居候させたりするが、ケリー=アン自身はどのようなスタンスなのかは明かされない。
彼女は何者で、なぜこの裁判に関心があるのか?
映画は事件の真相というよりは、ミステリアスなケリー=アンへの興味で全体を引っ張るが、結局のところ最後まで見ても、はっきりとしたところは分からない。
だが本作におけるレッドルームは、ワンダーランドならぬダークランドへと繋がる、人間の欲望が作り出す底なしのウサギ穴だ。
だから複数形なのであって、人々は無意識のうちにぽっかり開いた穴に吸い込まれ、堕ちてゆく。
一応、ケリー=アンの行為によって正義はなされたという形にはなっているが、人生を壊してまで事件に執着する彼女もまた、ウサギ穴の誘惑によって惑わされた者なのは明らかだ。
なかなかに恐ろしい心理劇である。