dm10forever

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地争覇のdm10foreverのレビュー・感想・評価

3.5
【混沌とした中国はもはやカオス】

実在した武術の達人「黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)」が動乱の中国を舞台に大活躍する『ワンチャイシリーズ(ワンス・アポン・ア・タイム・インチャイナ)』の第三弾。
このシリーズはとにかく大好きで、まだ世の中にDVDなる文明の利器が登場する遥か以前から何度もレンタルビデオで借りては観ていました。

とにかくジェット・リーはかっこいいね。まぁ僕らの世代の方には「リー・リンチェイ」と言ったほうが馴染みがあるかもしれませんね(笑)。
とにかく身体能力がずば抜けているので、彼のバトルシーンを観ていて「負ける」「負けそう」という感じがあまりしないんですね。苦境に追い込まれても、まだどこかに余裕があるというか・・・。

香港のアクションスターと言えば、忘れてはいけないのが「ジャッキー・チェン」ですね。この作品のレヴューを書きながらも誤解を恐れずに言うと、僕はジャッキー・チェンが大好きです。基本的にジャッキーの作品は人間臭いんですよね。単純に「コミカル」だからとかそういう理由だけではなく「人間の弱さ」を表現するのが凄く上手いと感じるんです。特に「ポリスストーリーシリーズ」は第1作から重いテーマを扱っていて、それまでのジャッキー映画とは一線を画した作品でした。

で、以前「キッド」のレヴューでも触れましたが、チャップリンの表現方法で、他者が真似をしようにも中々完璧に出来ない「笑いの中に全ての感情を表現する」という感覚に通ずるものがジャッキー作品にもあると思うんです。
「場面自体はコミカルなんだけど、実は心で泣いている」というシーンを観て、こちらがその真意に気が付いたときに、思いがけず号泣してしまうという事がありますが、ジャッキー映画の『人間臭さ』はコメディやアクションの中に、単なる「怒り」や「憎しみ」「闘争心」だけではなく、時には「遊び」だったり「悲しみ」など、様々な要素が含まれていて、そのどれもがアクションシーンとして成立しているんですね。
今の若い世代の方たちは、そういうジャッキー映画をリアルタイムで観ていない方が多いかもしれないけど、何故ジャッキー・チェンがここまで世界的大スターになったのか?という最大のポイントは、単なるアクションスターというだけではなく、「人間味溢れるキャラクター×アクション」の融合を見事に成し遂げた稀代の名優だからなんですよという事をご理解いただきたいのです。

というところで本題。
なぜ、今作を観てレヴューを書く気になったのか?
物語は「自国の伝統、文化を守りたい」という考えと「文明開化を推し進めたい」という考えが交差する、文字通り「動乱期」にあった中国で、民間人として治安の維持を行なった黄飛鴻の活躍を描いたシリーズなのですが、主演のジェット・リーのそれまでのイメージは、ジャッキーのそれと比べると「優等生」なんですね。
悪いことではないんです。ただ、感情の起伏があまり見えないキャラだったんですね。もともとガチの武術家(中国の武術大会の連続優勝記録は未だに破られていない)だったし、そこら辺は仕方ない部分でもあるけどね。
だから、どちらかというと「ストイック」「クール」みたいな印象を受けることが多かったんですね。
ただ、このワンチャイシリーズの黄飛鴻では一枚殻を破ったとでも言いますか、表情がとても豊かになった印象を受けました。初めてこのシリーズを観たときも「あれ、何かいつもよりも表情がいいぞ」なんて超上から目線で見ていた記憶があります。シリーズを通して登場するヒロインのイーとの切なく揺れる恋心なんていう恋愛パートも相まって、それまでのイメージにはない「ジェット・リー像」が垣間見えた作品でした。

あと、個人的には「鬼脚」のエピソードがよかった。
とにかく脚力が桁外れに強くて、その実力は対戦した黄飛鴻でも一目置くほどでした。しかし全ての敵を脚蹴りで文字通り「蹴散らして」きた彼が、とある事故でその最大の武器である脚に大怪我を追ってしまったことで、自分をいいように使ってきたボスにボロ雑巾のように捨てられ、途方に暮れていたところをライバルである黄飛鴻に救われ、最初は敵意を剥き出しにしつつも、次第に黄飛鴻の寛大さに心を開き、最後はかつてのボスを倒すために黄飛鴻に協力するのですが、描き方自体は雑ではありますが、いいです。結構泣けるエピソードです。
「鬼脚、いい奴じゃん・・・あばれる君みたいな顔だけど・・・」

昨今の作品に比べるとアクションシーンもワイヤー感がバリバリで「動きがきごちないな」なんて若干気にもなりますが、それでも「ジェット・リー=黄飛鴻」というイメージを確立したシリーズとしては面白かったと思います。
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