享楽

アキレスと亀の享楽のレビュー・感想・評価

アキレスと亀(2008年製作の映画)
4.5
北野武さんの芸術観がよく現れている作品なのだろうか。公式的な解説が観たくてたまらなくなった最期だった。最近「ビートたけしと北野武」という新書も買ったことだしこちらを読み進めながらWたけしという存在を少しずつ解読していきたい。今作におけるたけしは三つの子魂百までといっても過言でなく、要は芸術家は生まれてから死ぬまで芸術家でありまた当人もその運命から逃れようもない(中年のたけしの演技においては最もそれがよく顕著に現れていて、よく子どもができれば人間変わるなどと言われているが、彼は真の意味での表現者といえばいいだろうか、とにかく彼は小学校時代から20万円で錆びれたコーラ缶を売るまでいわば彼の内なる心性…一度彼を魅了してしまった物に対して絵で表現するということがワルいくせのようになっているという点で日常的にほとんど絵を描くことしかできない)のだ。承認欲求という観点から見てみると、彼は幼少期に彼の承認欲求をふんだんに満たしてくれた父母との死別から芸術家としての存在という面で長く欲求不満だったのであろうが、妻(おそらく唯一と言っても過言でない彼の真の理解者)との出会いでその欲求不満は一時的に満たされるのだが、妻との別れから狂気的な芸術を創造するに至るまで彼は自身の芸術家としての不器用さを芸術を通して呪うのだが、どうしようもなくなった果てにあの妻の「帰ろう」という一言にはもはや母性的、あまりに母性的な神々しさを感じ泣いてしまったのだが、あれは芸術家としての彼が真に己の欲求の深淵に及ぶまでを満たせた恍惚的体験とでも呼べるべきものであり、その多くの過程が不幸だと思える彼の生涯の全体性に対して、羨望の眼差しを向けてしまうほどであった…。
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