人は誰かに取り上げられこの世に誕生するが、最期は、誰の力も借りずに死ぬ事ができる。
誰かと生きて。
独りで死ぬ。
ただそれだけの存在。
フランソワ・オゾンが描く、死の受容と葛藤。生身の人間らしさが、塊のように、画面から溢れてくる。
主演は『わたしはロランス』のメルヴィル・プポー。突然死を宣告された31歳の葛藤を、美しくも荒々しく表現している所が素晴らしい。
ついこの間、邦画の「トイレのピエタ』を観たばかり。テーマも設定も似てるが、本作の方が感情表現が分かりやすいし感情移入しやすかった。フランソワ・オゾンゆえの、クオリティという所だろう。
人は思った以上に鈍感だ。
生という大海原に当たり前のように浸かり、それに甘え、美しいものに気づかない。
見えないものが見えて初めて、その生温い大海原から、冷たい大海へと漕ぎ出す事ができる。
つまらない日常など、この世にない。