みかんぼうや

知りすぎていた男のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

知りすぎていた男(1956年製作の映画)
3.7
【「ケ・セラ・セラ」に祖母を想う。ヒッチコックらしいユニークな設定と展開、登場する人物が全員怪しく見える不穏な空気感に引き込まれるサスペンス】

昨年までヒッチコックを1作も観たことがなかった私ですが、気づけばようやく7本目。初めて観た「裏窓」は設定がかなりユニークでしたが、“サスペンスの帝王”と言われる所以は一作では正直分かりませんでした。が、彼の作品を観れば見るほどに「よくこれだけ異なる設定や種類の面白いサスペンスを創るな~」という思いが増し、帝王たる所以を徐々に理解し始めています。

本作は、作品の構成自体は「裏窓」のようなユニークな作りではないものの、序盤から主人公夫婦に絡んでくる人々がことごとく怪しくて、後から考えるとただの一般人みたいな人すら悪いやつに見えこちらも疑心暗鬼気味になってしまう不穏な空気が漂っています。エキストラで画面の後ろにちょっと映っている人すら、何か企んでいるような悪い顔に見えて、急に何か仕掛けてくるんじゃないかと思ってしまうのですから、ヒッチコック作品の映像作りはさすがですね。

その不穏な空気感に引っ張られながら、どこまでが敵か味方かも分からず先が読めない展開にかなり引き込まれ、中盤までは「ヒッチコック作品で一番面白いかも」と思っていたのですが、正直なところ、ラストで結構失速してしまいました。後半のオーケストラシーンは1つの見せ場だと思うのですが、どうもその後の展開があっさりというか、予定調和感強めのスムーズ過ぎる展開で随分粗く見えてしまって。「結局そんな簡単に逃がすの!?」とか心の中で色々と突っ込む場面が多かったです。

ただ、これはヒッチコック作品お決まりなのか、「裏窓」も「北北西・・・」も、ラストまで巧妙な脚本で楽しませてくれるわりに、なんとなく最後は予定調和なハッピーエンドで強引な印象があります。「セブン」のような終わり方にして欲しいとは思いませんが、サスペンスなので予想を裏切られる衝撃的な何かも観てみたいですね(その点では「サイコ」の終わり方は好きでしたが)。

物語とは直接関係ありませんが、先日、長らく同居していた祖母が亡くなったのですが、その祖母が大好きでよく聴いて歌っていたのが「ケ・セラ・セラ」で、葬儀でもこの曲をかけました。

かかっていたのは、このドリス・デイのオリジナルだったと思います。祖母と映画の話をしたことは、記憶の限りでありませんが、もしかしたら、この「知りすぎていた男」も観ていて好きだったのかな?などとちょっと感傷に浸りました。そんなことからも、物語本編とは別で、大切にしておきたい一作でした。
みかんぼうや

みかんぼうや