スギノイチ

強盗放火殺人囚のスギノイチのレビュー・感想・評価

強盗放火殺人囚(1975年製作の映画)
2.5
猥雑ダークヒーローを描き切った『脱獄広島殺人囚』やアクション多目の『暴動島根刑務所』に比べ、相棒役の若山富三郎が作用しているためか、本作はシリーズ中で最もコメディ色が強い。
戦時中に投獄された若山富三郎が数十年ぶりにシャバへ出るシーンでは、戦時の感覚で兵隊の格好で街へ行こうとしたり、初めて見る街頭テレビに驚く、というベタなカルチャーギャップネタも。
この陽性。『ショーシャンク』で描かれたようなジレンマとは無縁の男だ。
前半、焼却炉で松方を焼き殺そうとする時の暴力的な演技はさすが。

しかし、若山富三郎と一旦別れて以降はぐっとつまらなくなる。
川谷拓三と協力して行う脱獄アクションはかなりしょぼい。画面に奥行きが無さ過ぎてドリフみたいだ。
その後、なんやかんやで敵黒幕の遠藤辰雄を射殺し、屋敷に火をつけ、これにて「強盗放火殺人囚」となる。
(松方はついでに途中で春川ますみを強姦していたので、本当の罪状は「強姦」もつくが)

『暴動島根刑務所』の松方&北大路コンビのなし崩し的協力関係と違い、本作の松方&若山コンビの関係性は任侠映画における兄弟杯のそれである。
この辺りも、中島貞夫と山下耕作の作風の違いが如実に表れている。
ヒロインのジャネット八田(トイレでの濡れ場あり)よりも瀕死の若山富三郎を選ぶ松方。
ジャネット八田の制止を尻目に、トラックを爆走させる松方の足元には、散らかる札束と力尽きた若山富三郎。
まさしくこれは任侠映画だ。でも、このシリーズの本質は任侠を孕んじゃいけないのだ。
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