垂直落下式サミング

ズール戦争の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ズール戦争(1963年製作の映画)
5.0
約半年間続いたズールー戦争において、英国軍が先住民族相手に思わぬ痛手を負ったロルクズ・クリフトの戦いを描いた戦争叙事詩。見知らぬ土地の風景がイキイキと映し出される異国情緒ある旅行映画風味ってのが、宗主国たるイギリス人の琴線に触れるエンタメだったようで、けっこうヒットした作品らしい。
この規模の映画にしては最低限の制作費を切り詰めているようで、セット構築費を削減するために南アフリカでのオールロケーションを実施したとのこと。さらには、エキストラとして現地のズールー人が協力。低予算が功を奏して物語の臨場感が増し、結果として同年代の大作映画と比べても遜色ない迫力である。
冒頭の乱痴気騒ぎのような躍りがもう楽しい。映画の前半は、身綺麗な格好で優雅に茶会に勤しむ英国人と、他部族との殺し合いが日常茶飯事なズールー族の生活の対比が抜かりなく描かれていて、ウルルン滞在記っぽい異国情緒にあふれる。
このイギリス軍人たちを、侵略者でも犠牲者でも英雄でもなく、危機的な状況に放り込まれたごく普通の青年たちとして描いているのもよかった。非文明人の戦力を安く見積もって平和ボケしていた男たちが、危機と絶望に直面して奮起していく様子は、観客にとって親しみやすいものだったと思う。
近代となり、軍用ライフルが連発式になったと言っても、この当時の銃は耐久面においての信頼性は確立してなかった為、それが槍と棍棒と僅かな銃しかもってないズールー相手に苦戦を強いられた大きな理由のひとつでもある。マルティニヘンリー銃かあ。マスケット式のフォルムを残したスナイドル銃のほうがかわいいんだけどな。
ズールー軍は、中途半端な近代兵器では歯が立たない屈強な戦士たち。軍隊も形無しの統率力で迫ってくる。死ぬことが前提な捨て石のような作戦でも、意に介さず突っ込んでくる勇猛さ。めちゃくちゃ強い。ある種の先住民族たちへのリスペクトが感じられた。アメリカ西部劇に足りなかったものがここにある。
アフリカの部族社会は、文明のぬるま湯に漬かった我々の目からみればハードコアカルチャーにみえるかもしれないけれど、撮影した当時の数世代前には、確実にそこにあったであろう土着の価値観をしっかりと尊重しているような描写が偉いと思った。ズールー族を野蛮な原住民ではなく、特殊な美意識を持った誇り高い戦士たちだとしている。
両軍犠牲出まくりの戦闘のあと、英国軍は意気消沈なのに、またも大軍を引き連れて復讐に来たのかと思いきや、敵の勇敢な戦いぶりを称えに来るところ。めっちゃ好き!
かといって、ズールの戦士たちもただやみくもに犠牲を覚悟で突っ込んでくるわけではなく、連隊の波状攻撃は理にかなった戦法らしい。実際、イギリスとの戦争の際にズールー王国側が用いた戦術とのこと、そういったマニアックな面でも信用度の高い作品となっている。
同窓会風味のコメンタリーもよかった。出演者や故人の奥さんたちが当時を懐かしみながら、サイ・エンドフィールド監督の手腕や、主演件プロデューサーのスタンリー・ベイカーの人柄を褒め殺し。その後、役者として大成したマイケル・ケインと共演したことについても嬉しそうに語る。歴史的な大作に関われたことを誇りに思うと、みんな得意気だ。
でも、避けて通れないアパルトヘイト。人種隔離政権下でのロケ撮影のはなしになると、誰も彼も苦い顔をしながら複雑な思いを語っていたのが印象に残る。
秘密警察に張り付かれながらの撮影。ズールーへの報酬は一切を禁じられていたから、セットは取り壊さずに、学校や病院など公的施設として使えるようにと、そのままプレゼントしたんだって。偉いよ。紳士だよ。ベイカー卿、尊敬できる行いだ。
ある程度の良識がある人は、本作と『遠い夜明け』『インビクタス』を続けてみて三部作とすることで、南ア民主化に至るまでの大きな流れをザックリと感じることが可能。いっちょやってみてほしい。