ヒロ

アタラント号のヒロのレビュー・感想・評価

アタラント号(1934年製作の映画)
4.7
前作『新学期 操行ゼロ』であれだけ社会に反発していたヴィゴが他人の持ち込み企画とはいえ最期に撮った題材が愛の物語ってもうそれだけで泣ける。『ニースについて』の前衛的モンタージュと『競泳選手ジャンタリス』の水中撮影をドッキングした無き妻の言い伝えのシーン、ヒロシ&キーボーもびっくり三年目の浮気ならぬ三日目の束縛のあの平行モンタージュの素晴らしさは映画史上最も美しいラブシーンと形容しても過言ではないもはやモーリスジョベールの叙情的な音楽がパヤパヤパッパッヤッパヤ♪と聞こえてくる始末、あと猫とレコードとシモンは部屋とYシャツと私に匹敵するゆるふわな化学反応、と、盛大にふざけたが、この映画は次なる目的地に向かうアタラント号の空撮ショットで幕を下ろす、そこで気付いてしまった、ヴィゴの人生ラストカットとデビュー作『ニースについて』の人生ファーストカットが同じショットだったことに、そんなロメールの映画のように見事な天才ヴィゴの映画人生の開幕と閉幕に勝手に想像を巡らせ泣いた。当時こんな完璧な作品が配給元のゴーモン社の反感を買い大幅に改編更に改題までされ客の入りも散々上映は二週間で打ち切りに、それと比例するようにヴィゴの病状は悪化しそのまま帰らぬ人に。呪われた映画作家ジャン・ヴィゴに言いたい、とても美しくとても感動し見終わったあととても幸せだったこと、『タイタニック』もカラックスも真似をしていたこと、カウリスマキもジャームッシュもオールタイムベストに選んでいること、上映後に拍手が起きたこと。とてもいい映画だった。

《ゴーモン映画〜映画誕生と共に歩んできた歴史〜》
ヒロ

ヒロ