茶一郎

アタラント号の茶一郎のレビュー・感想・評価

アタラント号(1934年製作の映画)
4.3
 ベタなラブストーリーのはずが観た後に覚えているのは、猫、ホルマリン漬けのニンゲンの手、おじさんの全身刺青……という隠れ変態映画だと思う『アタラント号』。数々のオールタイムベストに名前を刻んでいるこの傑作は、29歳の若き天才監督が結核のため横になりながら撮った、そりゃアキ・カウリスマキに「命がけの傑作」と言わしめるだけがあります。

 劇場では本作の特集前のアラン・ロブ=グリエ特集の予告で、散々聞かされていた『アタラント号』のテーマソングでしたが、やはり劇中でかかるとアガる。何より本作は音楽が最高。サイレント映画からトーキーへの移行さながらの、夫婦がアタラント号へ乗り込むシーン、何より「アキ・カウリスマキがここから引用したな」というレコードを指でなぞるシーンは、普段、トーキーが当たり前になっている我々でもトーキーである事の多幸感が伝わる豊かなシーンでした。
 
 それこそ夫婦がアタラント号に乗り込む際のアクション・コメディ演出から、船の上に立っている登場人物を映す時の不思議なカット割り、霧、猫。元々、持ち込みの無難な企画でもも監督の語り口によって、こうも変態な映画になるかという良い例です。
 エイゼンシュタインも驚きの、途轍もなくエロティックなモンタージュは一生、記憶に残しておきたい、「映画」である事の幸せが詰まっています。
 『ニースについて』の俯瞰視点、『競泳選手ジャン・タリス』の水中ターン、『新学期・操行ゼロ』のコメディ、やはりジャン・ヴィゴの短・中編と合わせて観たい作品でしたね。