Ricola

恋恋風塵(れんれんふうじん)のRicolaのレビュー・感想・評価

3.6
台湾の原風景がとにかく美しく、目にも耳にも心地よい作品だった。

そこに淡い初恋が自然に溶け込むのだが、不思議と柔らかで穏やかな気持ちになる。


真っ暗なトンネルから抜けて、電車の中も明るい光がさす。
日常のひとかけらのようなことなのに、世界自体がまるでそうであるかのように錯覚してしまいそうになる。

十分の駅のホームがとても印象的である。
数年前に行ったことのある土地が、約30年前から変わっていないということがよくわかる。

夏空の元の青々とした草木が、ギターの音色と自然や生活が織りなす音とマッチして、気怠さと平和と切なさを生み出す。

幼なじみの男女が徐々に惹かれ合うも、なかなか思いを打ち明けられない。
じれったいけれど、その初々しさにそわそわしつつほんわかした気持ちになる。

周りからしたら二人はどう考えても両思いなのに、当人はなぜかそれに気づいていない。そんなグレーな状況がもどかしいけれど、実は結構幸せな恋の段階なのだろう。

人物たちの感情をフォーカスする場面においても、クロースでなくあえてひきで撮ることで、観客に複雑な感情を想像させようとしているのだろうか。

なぜか懐かしく感じる風景に、登場人物の横顔や背中の引きでのショットは、少し小津作品における哀愁とノスタルジアの共存を彷彿とさせる。

しかし良くも悪くも言葉が少なく、説明的でないため、曖昧さを感じる表現が多く、少し物足りなくも感じた。


全体的に爽やかな雰囲気の中、美しい時間が夢見心地に感じられたり、台湾の実情らしい厳しさも感じられるような、まさに大地の自然を表したような作品であった。
Ricola

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