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来し方 行く末/耳をかたむけてのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

3.3
【他者の人生をなぞると自分の人生が回り始める】
第36回東京国際映画祭でダークホース映画として称賛された『耳をかたむけて』が『来し方 行く末』と詩的なタイトルとなって公開された。本作はクリエイターの苦悩を優しく包み込むような作品であった。

大学院に進学し脚本家を目指すも挫折し、弔辞の代筆業をしながら悶々としている男を扱う変わった作品。アンニュイな間延びした時間を包み込むようなフレーミングが美しく、風呂の場面ひとつとっても一目見たら忘れられない構図となっている。

ウェン・シャンは脚本家として行き詰っており、自分の人生から何も生み出せなくなっている。そんな彼が他人の人生を追体験する弔辞の代筆をしているのが興味深い。親族は知っているようで、関係性が近いからこそ自分の思うビジョンが先行してしまう。ウェン・シャンは亡くなった人はどのような人生を歩んでいたかを整理し、時に関係者と対立しながらも人生を編み込んでいる。その中で自分の中に物語が生まれていき、再び筆が動き始める。これはまさしくクリエイター賛歌であろう。悩んで書いては消し書いては消し、リライトした先に自分の世界が見える瞬間が描かれており、創作の美しい世界を普段創作しない人に伝わる形で描き切っているので好感を抱いたのであった。
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