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あいつの声のmaverickのレビュー・感想・評価

あいつの声(2007年製作の映画)
3.6
実在の事件を基に映画化した07年の韓国映画。実際の事件は韓国三大未解決事件として有名。他の二つの事件も、『殺人の追憶』『カエル少年失踪殺人事件』として映画化されている。

裕福な会社経営者の息子が誘拐され、犯人は身代金を要求。息子は遺体で発見され、犯人は捕まらないまま時効を迎えたという事件が基になっている。会社経営者の父は有名なニュースキャスターという設定に変更されているが、犯人の台詞は実際と同じものを引用し、作品の最後には犯人のモンタージュと脅迫電話の肉声が流れるなど、公開することで事件への関心度を高めることが目的とされた作品性である。本国韓国での観客動員は314万人。事件の時効前に本国では公開されている。

主演はソル・ギョング。韓国が誇るカメレオン俳優。『ソウォン』では娘を強姦され怒りと悲しみに暮れる父を熱演したが、本作でも誘拐犯に翻弄されて心身ともにズタボロになる父親を迫真の演技で演じている。冒頭の人気ニュースキャスターぶりも見事。仕事柄表向きは紳士な態度であるが、犯人に翻弄されてゆく内に感情をぶちまけるように。息子に無事に戻ってきてほしいという強い思いと、犯人に怒りをぶつけ、捜査の進まない警察にいら立つ心の揺れ動きを演じ分ける姿は流石であった。犯人役を声だけの出演でカン・ドンウォンが演じたのも話題に。いつもの優しい彼のイメージとは全く違う、冷酷非道な憎たらしい犯人を演じきっている。

主人公である父親の職業を変更したことによる脚色が結構大きく、個人的にはこれは失敗だったと感じる。お涙頂戴的な演出が強すぎるし、無理な演出が多かった。韓国映画を新旧合わせて数多く観て思うのは、昔から役者の演技力は非常に高い。本作でも演者の凄味はひしひしと感じた。演技下手だなという人はほとんど見かけない。面白くない作品の場合、ほとんどが脚本の問題。本作は丁寧な作りになっているものの、作品への引き込まれかたが弱い。序盤の家族のエピソードが長いし、事件が起こってからの展開も引き付けるものが少ない。現在の韓国映画はこれが解消されていると感じる。優秀な脚本家を育てるのが大事、そう考えたのだろう。今や話題作、優秀作が目白押し。次から次へと面白い映画を量産している。

脚色が多分に入っているとはいえ実際の事件を基にしている以上、最後は事件と同様の結末を迎える。本作を観て憤ること。それが何よりも重要。こんな事件許せないと、そういう正しい心を多くの人に植え付けることこそ重要なのだ。日本も凶悪な事件が数多く起こるが、そこから目を逸らしてはいけないと思う。明るく前向きに、楽しいこと幸せなことに目を向けるのはもちろん良いこと。けれどそれと世の悪いこと間違っていることなどの問題点を見ようとせず、知らんふりするのは違う。正しい世の中とするためにはどうすればよいのか。みなで考え行動してゆかなければならないのだと思う。

日本もこういう映画で話題をさらえるようになってもらいたいなと。こういう力強い映画を作れるようになってもらいたい。
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