むっしゅたいやき

田園詩のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

田園詩(1976年製作の映画)
4.3
ノスタルジーとポエジー。
オタール・イオセリアーニ。

イオセリアーニの映像には、詩が有る。
“詩を感じる”或いは“詩的な”作品は他の監督にも在ろうが、“詩に没入させられる”作品を撮る監督は、寡聞にして私はイオセリアーニとタルコフスキーより他に知らぬ。
ソフトフォーカスを多用し、間を取る手法には毎度感心させられるが、矢張り都市部を舞台とした作品よりも、本作の様に田園を舞台とし、素朴な人々とその営々とした営みを描く方が、彼の作風には適している様に思われる。

扨、『田園詩』である。
かのタルコフスキーが激賞した本作は、メランコリックで郷愁を誘われる、田園地帯に於ける或る少女の一夏を描いたものである。
とは言えその心情に迫るでも無く、イオセリアーニは飽くまで客観的に彼女とその家族、一夏を過ごしにやって来た首都トビリシの弦楽カルテットの若者達との交流を描く。
様々なエピソードや生活場面をパズルの様に不均等に、脈絡無しに組み合わせ構成されているこの作品は、ともすれば冗長に見えるかも知れない。
然し通観した後、本作を振り返ってみれば、自身まで鮮やかで彩り豊かな自然と、小鳥の囀りや弦楽四重奏、酔人のポリフォニー、驟雨の音、果ては隣人との喧騒と云った音声豊かな田園生活に包まれていた事に気付くであろう。

それは街の一室で、偉そうにソファに腰掛け齧る林檎からはまるで想像も出来まい。
同じ物が、都市部と田園部とではまるで異なる重さと滋味を持つ。
何とも切ない余韻を残す作品である。
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