このレビューはネタバレを含みます
かつて愛し合っていた二人のガンマンの葛藤を巡る短編西部劇。ロケーションがマカロニ・ウエスタンの聖地であるスペイン・アルメリア地方ということに何とも言えぬ感動がある。“殺人を犯した息子を巡る旧友同士の葛藤と確執……”という構図になんとなく既視感があったけど、ジョン・スタージェス監督の『ガンヒルの決斗』だった。要するに本作、カーク・ダグラスとアンソニー・クインが明確に愛し合っていた場合の物語なのだ。そして内容的にやはり『ブロークバック・マウンテン』を思い出すというか、ワインを浴びる回想のシーンなんかは特に想起させられる。
宣伝では“クィア・ウエスタン”と評されたりなど現代的な価値観を取り込んだ作品でありつつ、“古典的な西部劇”に対する的確な換骨奪胎を果たしている。男同士の友情、確執、葛藤、愛憎、そして対立……。かつての西部劇が表面的にも潜在的にも持ち合わせていた要素を踏襲し、リベラルな観念と折衷・融和させている。愛し合っていた二人が共同体の外側に改めて“居場所”を作る未来を予感させる結末も、ある意味でジョン・フォードの『駅馬車』などに通ずる部分がある。本作、革新性を備えつつもしっかりオールドスタイルの系譜なのだ。
イーサン・ホークとペドロ・パスカルのアンサンブルはやはり良くて、過去に愛し合いながらも離別した男二人の感情の機敏や衝突を見事に演じていた。一夜を過ごした後の二人のすれ違いが印象深い。イヴ・サンローランが手掛けた衣装設定も秀逸で、カーク・ダグラスから着想を得たらしいフォーマルな黒服や西部劇では珍しい緑ジャケット+赤シャツの出で立ちなどが洒落ている。本作はアルメリアで撮影されつつも音楽にマカロニっぽさは無かったけど、パンフレットによればどうやら意図的にモリコーネからの引用を避けていたみたい。
短い尺で端的に収めていた西部劇だったけど、やはり最後はもう10分くらい欲しかった感は否めない。二人の関係性や感情そのものは作中で描かれていたとはいえ、最終的な着地点に関してはもう少し掘り下げや余韻のようなものが欲しかった。そんでこの映画、十年ほど前だったら二人は死別してそうな雰囲気がある。