ノラネコの呑んで観るシネマ

年少日記のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

年少日記(2023年製作の映画)
4.4
香港の高校教師のチェンは、妻に出て行かれて離婚直前。
原因は、自分の抱える幼少期からの悲しみを、ずっと打ち明けられていないから。
そんなある日、学校で誰が書いたのか分からない遺書が見つかる。
そこに書かれていた「私はどうでもいい存在」という一文が、チェンに遠い少年時代の日記帳を再び手に取らせる。
そこには厳格な父のもとで、優秀な年子の弟とことあるごとに比較され、躾という名の暴力に耐えるトラウマの日々が 「私はどうでもいい存在」と言う言葉と共に綴られていた。
ニック・チェク監督のデビュー作だが、老練さすら感じさせる洗練された語り口。
本作では、物語の中盤に驚くべき視点の転換が行われている。
これによってチェンの抱える悲しみとトラウマの本当の意味が、ぐっと深みを持って明かされており、なぜ彼が本当に生徒の書いたものかも分からない、匿名の遺書にこだわるのかも明確になる。
香港では学業へのプレッシャーからか、青少年の自殺率の高さが社会問題化しているらしく、本作も元々チェク監督の自死した友人の話だったそう。
監督自身も名家に生まれて、エリートコースを望む親との関係は、悪かったと言うので、ある程度自伝的要素も入っているのだろう。
避けられたはずの喪失が、残された人々に何をもたらすのか。
一通の遺書から始まる物語は、叙情的なタッチで展開し、主人公に改めて過去の出来事と向き合うチャンスを与える。
なかなかの良作です。