イチロヲ

清作の妻のイチロヲのレビュー・感想・評価

清作の妻(1965年製作の映画)
4.0
生計のため隠居の妾になり、村八分にされた女性(若尾文子)が、兵役から帰ってきた模範兵の青年と恋仲になる。共同体意識が根付いている村社会を舞台にして、ひとりの女性の数奇な運命を描いている、ヒューマン・ドラマ。

本作の主人公は、妾奉公していたことからアバズレと吹聴されてしまい、日陰者の扱いを受けている人物として登場。隠居に弄ばれて貞淑を失っているけれど、本物の愛情は知らないまま。そんな彼女の前に、人間の尊厳を与えてくれる青年が参上する。

青年もまた、未熟な恋愛を主人公と一緒に歩ませようとするところが醍醐味。村民から英雄視されている軍人であるということ、そして日露戦争の軍靴が近づいていることが足枷となり、彼女の真心を汲み取れなくなってしまう悲劇が展開される。

人間のもつ嫉妬心と偏見と差別がテンポ良く刻み込まれており、不条理劇の局地を感受することができる。「惚れると憎むは表裏一体」のカタストロフィを描いた作品としては、一級品と言っても過言ではない。
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