ヒノモト

あんのことのヒノモトのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
3.7
『SRサイタマノラッパー』や『AI崩壊』などの入江悠監督最新作。
2020年の日本で現実に起きた事件をモチーフに製作された作品で、母親から暴力を受け、売春の強要もされていた主人公の杏が、覚醒剤使用により警察の取り調べを受けた刑事との出会いにより、新たな人生を歩み始めるというお話。

事件の顛末からして、救いのあまりない物語であり、冷ややかな目線で描かれていて、登場人物たちの行動やその結果を肯定も否定もしない、グレーな存在として扱っていることが、観る側の感情を動かしにくい要因になっているのですが、それが杏の境遇の不幸さ、日本のシステムの曖昧さを際立たせていて、複雑な気持ちをずっと抱える辛い体験を強いられます。

ドラマとしては若干泥臭さを感じる一方で、ふとドキュメンタリーのように杏を捉えるカットやシーンも多く、演じる河合優実さんのナチュラルな演技には引き込まれる場面は多かったです。

薬物依存者の救い、社会復帰へのシステムの脆さが起こした小さな事件に目を向けること、認知することが今後の希望になればとは思いますが、映画全体に感じるもどかしさや、息苦しさは、人と人の関わり合いの中で、他者の思いを感じきれない軋轢のようにも思えて、いびつな形ながらも当人の思いの機微が見え隠れする終盤の境遇、その佇まい自体は良かったです。
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