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あんのことのrage30のネタバレレビュー・内容・結末

あんのこと(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

薬物依存症の女性の更生を描いた作品。

主人公・杏の家庭環境がとにかく酷くて、衝撃的なものがありました。
最初は薬物中毒の売春婦くらいに思っていたのが、実家はゴミ屋敷で母親はネグレクト&DV&売春斡旋をする超毒母だし、12歳で売春をさせられ、学校にも行けず、薬物依存症にさせられてしまうと。
実話ベースの作品という事で、こんなアメリカの貧しい田舎町でありそうな話が、まさか日本でも起こっていたとは…。
この現実を知るだけでも、この映画を見る価値はあると言えるでしょう。

杏はそこから多々羅という刑事の助けも受けて、更生の道を歩みます。
自助グループに通いながら、仕事も見つけ、学校にも通い始め、個人的にはもうここで映画を終えて欲しかったんですけどね…。
まぁ、案の定というか、後半は再び、杏に不幸が訪れると。

コロナで仕事と学校を失ったと思ったら、多々羅にまさかの性加害疑惑が…。
世の中どいつもこいつも性加害野郎ばっかだなと思いつつも、それでも多々羅が薬物依存者を助けてきた事も事実なわけで、何とも言えない気持ちにさせられます。
まぁ、社会全体で考えるべき問題を多々羅という一個人に丸投げしてきた、その歪みが生み出した犯罪の様にも思えますし、これが個人で出来る事の限界なのかもしれません。

そして、更には隣人から子供を押し付けられるわけですが、この展開は映画オリジナルのエピソードだったという事で、ちょっと唐突に感じる部分がありました。
杏と子供の仲が急速に深まるのも違和感があったんですけど、この辺は虐待の連鎖を止めて欲しいという作り手の願いが込められているとの事。
後に杏が自殺する事を考えると、自殺に至る程の理由が必要だったと思うし、そういう意味では説得力が増す、良い脚色だったのではないでしょうか。

多々羅と出会わなければ、きっと薬物の過剰摂取で死んでいただろうし、多々羅が捕まらなかったら、杏が性加害に遭っていたかもしれないわけで、運命がどっちに転んだとしても、杏の人生は詰んでいたと言えるのかもしれません。
しかし、だからこそ、彼女が一瞬でも自分の人生を好転させ、前向きに生きられた時間は尊く、掛け替えのないものだったと思うし、それがせめてもの救いになったと願うばかり。

胸糞な映画なんで、万人にはオススメし難い作品ではありますが、良くも悪くも世間が浮かれていたコロナ禍に、杏の様な人間がいたという事は胸に留めて置きたいものです。
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