菩薩

撤退の菩薩のレビュー・感想・評価

撤退(2007年製作の映画)
3.7
前半部のビノシュの圧倒的な可愛さにやられる。父を失った悲しみを覆い隠す為か、まるで幼子の様に振る舞い続ける。しかもその相手は血の繋がらない弟、一応は「他人」であり、同時に「家族」でもある二人の関係性がイスラエル・パレスチナとの関係に繋がっていくのかもしれないが、戯けながら裸体を晒すところなどはかなり背徳的にすら映る。2005年のガザ地区からのユダヤ人入植者撤退をテーマに持って来ている作品、比較対象が『ケドマ』しか無く申し訳ないが、あちらがユダヤ人がアラブ人を追い出す作品だとしたら、こちらはユダヤ人がユダヤ人を追い出す作品となる。ビノシュはまるで外部からやって来た存在、弟はユダヤ人を追い出す側、ビノシュの娘は追い出される側、三者三様まるで違う立場でこの「撤退」は開始されていく事になるが、ただ目の前で起きている出来事を傍観するしか無かったビノシュは、最終的に「奪われる側」へと回る事になる。ビノシュと娘の再会シーン、娘の手には絵の具がべったりとつきなかなか抱きしめる事が出来ないが、互いの思いが堰を切ったようにぶつかり合う瞬間、そこからの長い抱擁がまさにこの映画を物語るハイライトになるのかもしれない。アイデンティティの探求、民族や国籍、それ故の衝突、作品の中に「分け与える」描写が何度か出て来るが、それこそが監督の悲願なのかもしれない。ただこの撤退以降もガザ地区は混迷の渦中にある…。
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