2024.09.03
ポスターを見て気になった作品。
新人賞を受賞して以来、新作を描けないでいるマンガ家、堀マモル。
新作に悩んでいる彼の部屋には、3人の少年少女がいた。
自分たちの物語を描くようにアドバイスを受けたマモルは、彼らの抱えた想い、叶えられなかった後悔を漫画にしていくうちに、自分自身と、かつて共に漫画を描いていた春との思い出を追想していく。
「そういうことじゃないんだよ。」
前後の文脈が無いとパワハラにも捉えられかねない言葉ですが、今作ではいい感じのキーワードになっていましたね。
まず序盤の時点でマモルの、本当に「そういうことじゃないんだよ」な性格が良く出ていて、彼がこれからマンガを通してどのように変化していくのかを期待させるような導入になっていたと思います。
中盤あたりまでは、スピリチュアルのような、ジュブナイルのような、ノスタルジックのような、はたまたSFチックのような感じがして、どこにどんな伏線が張られているのかと目を皿のようにして観ていました。
しかし、最後まで観ると今作はそのような考察をする作品というよりも、堀マモルという一人の人間が生きてきた人生と、今直面している壁、これからどうなっていくのかという期待など、色んな角度から徹底的に深掘りしていく人間ドラマだったと思います。
今作におけるもう一つの重要な要素がマンガ。
製作の過程は下書きぐらいまでで、本格的なものづくり系ではなかったものの、過去伝えられなかった想いをマンガに託していく過程が、こんな救いの形もあったのかもしれないねと、マモルが代わりに後悔を晴らしていくオムニバス形式と上手くマッチしていました。
しかしそれすらも壮大な前振りで、最初に編集者から言われていた、マモルのマンガから見えてこない「人間」の部分を自身の過去から描き出し、最終的には自伝のような、自身の過去に決着をつける作品を仕上げたことで成長を描いたのかと思います。
そこまでしたのにまだまだダメ出しされてしまうというのも、マンガ家という職業の大変さや凄さなどが伝わってくる良い描写でした。
今作に込められたメッセージとしては、描写されていたような過去の後悔が残り続けることや亡くした大切な人の想いが世界に残っていることとは真逆の、過去に起きた出来事は既に完結しているということ、死んだ人の想いは外にあるのではなく自分が忘れないでいることだったんじゃないかと思います。
後悔として残っている過去が実は現在の自分を照らす大切な思い出なのかもしれない、思い出を物に託されていても、いつかその想いに耐えられなくなるかもしれない、だから物に縋るよりも、死んだ人が遺した想いを自分の一部にする、そんなことが描かれている作品に感じました。