監督の初期作を学生映画祭で上映したこともあり、興味が湧いたので鑑賞。
継母の訃報を聞いて帰郷した女性が、兄のある嘘と思い出の味についての秘密を知る「味の話」。美術館で出会った男女が夜の逃避行へと繰り出す「香の話」。ピアノを弾く先輩に"ある思い"を抱える女子高生の「音の話」。無関係なようでいて不思議な縁で結ばれた3篇からなるオムニバス映画。
作品タイトルや、味覚・嗅覚・聴覚などのエピソードタイトルからも分かる通り、作品の主題となるのは「記憶」。
各エピソードが「美術館を巡る男性」のシーンでシームレスに接続されており、観客自身がその姿に投影することで「断片的な記憶」を辿るような、不思議な感覚へと誘われる作品だった。
第3篇の映像が挿入される冒頭に始まり、次第に明らかになる人物の背景、後半にいくにつれて錯綜していく物語など、ある程度の整理能力は必要になるのかもしれない。
しかし、それがかなり独創的な体験となり、観賞後には、まるで夢から醒めた直後のような浮遊感が残った。
例えるのであれば、近代美術館の若手作家展で、様々な作品を浴びた後の「咀嚼しきれないが満足感のある余韻」に近いものと言えるのかもしれない。
総じて、明確なドラマ性を持った第1篇が白眉だったが、文学的なモノローグが印象的な第2篇、受け手の想像が広がる第3篇と、それぞれが魅力的。
異なる色彩・アスペクト比と三者三様の表現を用いつつも、1つの作品として完成されているのが素晴らしかった。