監督の作品に興味があり、鑑賞。
東京で不動産屋に勤める美琴は、家探しをするカップルに付き添い、今日の仕事を終えた。
退勤後、ひとりでに公園に向かう彼女。
そのささやかな楽しみは、幼馴染みの男友達と、週に1回・約1時間、たわいもない会話をすることだった。
しかし、そんな日々に予期せぬ変化が訪れて……。
YouTubeで展開されている10分間の連続ドラマシリーズ「東京彼女」の1篇として、制作された作品。
映画版では全5話を54分の中編映画として再構成、同じく監督の中編『記憶の居所』との併映で公開された。
かなり文学的で咀嚼するのが難しかった『記憶の居所』と合わせて鑑賞すると、恋愛を中心とした人間ドラマが受け止めやすく、監督の手広さに驚いた。
なんといっても、恋愛会話劇の解像度が高すぎる。
自分がちょうど恋愛映画の脚本を書くことに興味を持っていた時期に見たことも影響しているかもしれないが、わずかな言葉で伝わる関係性や、のちの伏線となる自然なセリフ回しの巧妙さ(話が進むにつれて意味が分かってくる気持ちよさ)といったら……。
また、「恋愛」に重点を起きつつも、それらが「コロナ禍」というテーマと自然に重なる物語も素晴らしい。
タイトルにもなっている"朝"という言葉は、主人公にとっては、(劇中で描かれる)恋愛を乗り越えた先の"新しい生活"であり、本作の登場人物全員(と観客である私たち)にとっては、コロナ禍の先にある"新しい生活"でもあるわけで。
限られた時間の中で、これら2つのテーマを無理のない形で結び付けて描きつつ、かすかな希望を感じさせるラストが清々しかった。
また、そんな物語は、自分の経験も重なったからこそ、心に響いたのかもしれない。
コロナ禍に小学校~大学時代の友人たちが、たびたび連絡をくれて、Webでビデオ通話(Zoom会議)をしたことや、(これは今でも続けているが)海外に住む兄との週1ぐらいの頻度でする電話(LINE電話)であったり。
人間は生まれた瞬間から亡くなる瞬間まで「孤独」だからこそ、他者との繋がりを必要とするし、単純に、友人や家族との他愛もない会話からこそ(客観的になることで)「自分」を知ることもあるわけで。
そんな、当たり前だけれど、大切なことを改めて感じさせてくれる作品だった。
最後に余談にはなるが、人間離れした魅力があると思っていたSUMIREさんが、普通の人を演じていたのも、嬉しい驚きだった。
ちょうど、直近に観た短編『knot』(オムニバス映画『GEMNIBUSvol.1』の1編)では、ゴリゴリパンクな絵本作家アシスタントをクールに演じていたので、本作の冒頭こそ困惑したがw、今回の役は、そんなイメージも踏まえて、かなりのハマり具合。
強い自分を他者に見せようとしている美琴というキャラクターだからこそ、弱さが見え隠れしたときの人間らしさ。
それは間違いなく、SUMIREさんだからこそ表現できた魅力であり、今後の出演作品も追いたくなる作品だった。
参考
『東京彼女』10月号 幼なじみ篇
https://youtube.com/playlist?list=PLDHxDvLlWTEJXnN7pK7YWApJheRRQElF4&si=f-76ANiNhXBtVkMk
(YouTubeで公開された配信版。確認したところ、内容は映画と同じ。)
寝顔
https://youtu.be/-lSqMHJMc9Q?si=27-K6ccofE2wHFSU
(映画のED曲。希望が射し込むラストにぴったりの名曲。確かに分割なし&このEDで作品の印象はだいぶ変わるかも。)