シズヲ

侍タイムスリッパーのシズヲのレビュー・感想・評価

侍タイムスリッパー(2023年製作の映画)
3.8
幕末の侍・高坂新左衛門、現代の時代劇撮影所にタイムスリップ!!江戸幕府が百四十年も前に終焉を迎えたことを知り、行く宛を失った新左衛門は、時代劇の“斬られ役”として身を立てる道を選ぶ……。映画館、可笑しなシーンで周囲の客がみんな笑っていたので何だか楽しかった。

自主制作映画ながらも奇を衒ったアイデアや凝った脚本ではなく、愚直で分かりやすい内容によって完成度を担保しているのが面白い。粗筋もユーモアも、最終的なテーマも含めて、古き良きエンタメ性に溢れている。作中の感性も込みで終始に渡って様式美的なんだけど、それ故に真っ直ぐで憎めないし何だかんだ言って笑う。まぁベタすぎると言えばそうだし、シンプルな内容の割に2時間超えの尺なのはちょっと気になるけどね。優子殿の何とも言えぬ“マドンナ的ヒロイン”感にも妙な懐かしさがある。

侍と現代社会のジェネレーションギャップが滑稽に描かれるように、全編通して何処か古典的なユーモアに満ちている。要所要所でシュールに描写され付主人公の戸惑いや驚愕、ベタであっても何やかんやで憎めない。殺陣師の試験でうっかり師匠を打ち倒してしまう下りがなんか好き。そんな中で高坂新左衛門の人の良さが随所で描かれているのが何だか印象深い。常に愚直な態度で他者と接して現代社会に適応していったり、“庶民もケーキのような菓子を食べられる時代”に感激したりなど、人柄の憎めなさに好感を抱いてしまう。前述したエンタメ性も含めて、捻くれた部分のない素朴な魅力を感じられる。

本作は“幕末の志士”である主人公が“斬られ役”という現代では消えつつある役どころを演じ、更には其処に“衰退へと向かう時代劇”の哀愁も重ねられていく。そうしたノスタルジックなテーマに対する想い(そして幕末の志士にとっての未練や蟠り)が、作中のTVドラマ/映画に託され昇華されていく構図が印象深い。それまでコメディ的な作風が目立っていたからこそ、終盤の殺陣のシーンは“過去の清算”も相俟って張り詰めるような気迫に満ちている。「今はその時ではない……」

そして自分が劇場で見たときは上映後の挨拶があったけど、さりげなく時代設定に言及されていたのが何だか印象に残っている。厳密には現代よりも十数年ほど前(=TVドラマの時代劇がギリギリ生き残ってる頃)の物語らしいけど、確かにスマートフォンなどの最新機器がろくに出てこなかった。
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