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ラストマイルのsanbonのレビュー・感想・評価

ラストマイル(2024年製作の映画)
4.2
絶妙にもやもやする作品。

本来、こういうサプライズを含んだ作品というのは、公開直後のレビューでないと鮮度が失われてしまう為、下書きのストックはまだまだ消化しきれていないが一旦順番を前後して投稿しておく。(デッドプール&ウルヴァリンとか放置しすぎて腐ってるどうしよ・・・)

という事で、今作はマイフェイバリットドラマの中に両作品とも鮮烈に刻まれている「TBS」ドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」と連なる世界線で起こる出来事として制作されており、劇中には両作品からのゲストキャラクターが多数登場する。

とはいえ、今作のメインに据わる「デリファス」組と「4機捜」組「UDI」組が1スクリーンに収まるシーンは一切用意されていないので、がっつりと絡んでほしかった勢としてはめちゃくちゃガッカリだった。

ファンの中には、もう一度あのキャラクターが拝めただけで満足とか、一つの事件にこの3組が間接的に関わってる構図が尊いとかいう声も聞きはするが、やっぱりそれぞれの主人公同士の掛け合い、見てみたかったなぁ・・・。

発端が「アベンジャーズみたいな事やりたいね」という発言からという事で、それを汲むとおそらくこうなったのはスケジュールなど大人の事情が絡んでいるのであろうし、本当の意味での共演が叶わないならいっそという感じで、あのような距離感に落ち着いたのだろうが、それでもやっぱりそこのもやもやは相当感じてしまった。

とはいえ、各ドラマからの元犯人が、それぞれその後の姿として登場した点はかなり良かった。

「石原さとみ」や「星野源」「綾野剛」は事前に出ることは知っていたし、なんなら予告で見た映像が登場シーンの大半だった為、意外にもテンションの上下になんら影響を及ぼさなかったのだが、この2人の真っ当に贖罪を果たそうとしている姿にはめちゃくちゃ感動した。

正直、シェアードユニバース関連で感化されたのはここくらいだったかな。

そして、もう一つのもやもやは、もちろん「暗号」についてだ。

劇中で語られた意味以外の他に、なにか別の意味を持っているような引っ張り方をして本編が終わり、そしてそれが何か語られる事もない。

観た者に余韻を残す、考えさせるような映画というのは数多くあるが、今作のそれはやっちゃいけない悪手の方の引き方なのだ。

もっと端的に言えば、正解を明かさない意味がないのに無駄にはぐらかしたまま終わってしまったと言えば分かりやすいか。

解釈が幾通りにも出来て、答えを一つに絞ることが出来ない問いを残すんであれば、それはいい余韻となり得たのだろうが、今作は暗号の答えを明確に教えてくれていないだけなので、そりゃもやもやするに決まっている。

しかも、今作の暗号というのは、5年に渡り歴代のセンター長に語り継がれてきた歴史があるものとして登場している。

つまりは、明確に理解できる答えがあるから語り継がれているものなのだ。

じゃあ、あんな意味深なラストにする必要なく、もっと明瞭な幕の引き方があった筈だ。

また、その暗号をきっかけに1件目の爆発の真相に辿り着いたような展開だった気がするが、一体なんであれがそこに繋がるのかは全く釈然としない。

観客には、UDIの解剖シーンと併せて説明が入るから理解が出来るが、物流センター内にいた2人にはどうやっても謎を解明するには材料が足りない気がするのだが。

ちなみに、自分なりの暗号の解釈としては、物語の展開的に「一人の力では社会の流れは止められない」だろうか。

「山崎」は、ベルトコンベアを停止させる為、安全装置の作動する耐荷重70kgを自身の投身により与える事を思いついたようだが、それで止まったのはほんの一瞬で、実際には「五十嵐」という”社会の流れ”によって、それはすぐに回復させられてしまう。

それは、皮肉にも山崎が本来考えた答えとは真逆の解釈で伝えて広がり、起きてしまった事故と併せて教訓として語り継がれてきたのだろう。

つまり「1=ONE」という力で立ち向かったところで、大きな流れの中においてそれは搔き消されてしまう存在という訳だ。

ここで、冒頭のタイトルカットを思い出す。

そこには、電車の車窓をバックに意味深に間隔の空いた「LAST」と「MILE」の文字。

LAST MILEとは、本来「LAST ONE MILE」という表記が正しく、これが物流業界では最終的に顧客の手元に届く最後の区間を指している。

そう考えると、なぜ今作が意図的にONEの表記を無くし、そしてタイトルカットで意味深にもそこにはONEが隠されているような見せ方をしたのかが理解できる。

ベルトコンベアに乗せられ流されるのか、そこから自分の意志で抜け出すのか。

はじめは、全てが欲しいと雁字搦めになって切羽詰まっていた「エレナ」と、何もいらないと達観していた「梨本」が、暗号に隠された闇を理解した上で、最後にはその立場を逆転させて終了する仕組みをとったのは、そういうメッセージが隠されていたのかもしれない。

そして、梨本と五十嵐は暗号を見返すことで、改めて今自分がいるこの場所が地獄であると理解したのであろうか。

そう捉えれば、最後の梨本と五十嵐の表情や、ストライキのくだりとも筋が通っていて、個人的にはしっくりくる解釈になった。

と、まあ、今回はもやもやポイントを重点的に掘り下げたが、トータルとしてはとてもよく出来ていたと思うし、巨悪がいるわけではなく社会構造そのものの欠陥を浮き彫りにしているからこその無力感、やるせなさを演出した内容はとても良かったと思う。

この空気感こそドラマ2作品にも通ずるものだった為、そこに関してはかなり好感が持てた。

あと、エレナのキャラクター造詣が素晴らしい。

ミスリードを誘う挙動にちゃんと納得感と説得力を持たせられており、彼女の言動や決断に全く違和感を与えなかったのはマジで凄いと思った。

更には、10月からまた同じチームで新たな連ドラが始まるという事なので、そちらも期待しながら正座待機したいと思う。
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