TS

空飛ぶゆうれい船のTSのレビュー・感想・評価

空飛ぶゆうれい船(1969年製作の映画)
3.2
【子どもと大人で見方が変わるアニメの真骨頂】72点
ーーーーーーーー
監督:池田宏
製作国:日本
ジャンル:アニメ
収録時間:60分
ーーーーーーーー
映画評論家・町山智浩さんがオールタイムベスト級に扱っていた作品。幾多の映画を見てきた映画評論家がアニメをオールタイムベストに挙げているこの斬新さというか意外なところに興味を持ち鑑賞。なるほど、確かに粗はあるものの、シナリオ構成はしっかりしていてメッセージ性は高いです。今見ても色褪せない。そしてアニメの持ち味でもある、子どもと大人で見方・感じ方が変わるという要素も最大限に生かせています。

子どもが見るとタイトルとジャケ、そしてオープニングのBGMからして怖い映画だと感じるでしょう。『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』に出てきそうな不気味な幽霊船にガイコツの船長。子どもからするとさぞ怖いでしょう。ただ、それだけでなく後半はSF要素も絡んでくるため映像的にも楽しめる。子どもの感想としては、ハラハラして面白かったというところでしょう。

しかし、大人が見るとまた変わった感想を聞けそうです。要は、今作は現代世界の縮図であるということです。例えば今作で最も印象に残ると思われる「ボアジュース」の宣伝と中毒性は、現代の様々な事象と共通するものがあるでしょう。宣伝とは、する側に利益があるためにやるものなので、される側の不利益はあまり考慮しません。ボアジュースを飲ませた結果どうなるのか。例えば我々は何気なくスマホを使い続けていますが、指に負荷はかからないのか?ある研究では、皮膚ガンになる確率が上がるという結果も出てるそうです。当たり前ですが、人類の歴史上、こういう特殊な物質に継続的に触れるということは初めてですから、今は大丈夫だとしても数十年後何か影響が出るかもしれません。しかし、その時はその時。これは生産者も消費者も同じ感覚。要するに今儲ければよい。消費者も今満足できればよいのです。

また、仮想敵を作り軍需産業が大儲けをする描写なんて秀逸すぎると思いました。こんなの、アメリカがイラクに攻めいった事例と同じではありませんか。哀しきかな、武器を作り大儲けをする人間は存在します。武器を売りさばくにはどうしたら?簡単です。戦争を起こせばよいのです。つまり、武器商人をこの世から消さない限り戦争はなくならないでしょう。そしてその軍需産業が政府と結びついているという唖然の事実。今作は市井の人々が普段見えない闇の部分を的確に示しています。

この時期のアニメってこういう深い映画が多いのかもしれません。もしかしたら、メッセージ性に富んでいることで有名な「大長編ドラえもん」も、今見たら感じ方が違うのかもしれません。だからこそ日本のアニメ文化は誇れるものがあるのだと思います。
TS

TS