このレビューはネタバレを含みます
オープニングで前作までのおさらいにたっぷり時間をかけていてやさしい。やさしいけど、振り返りでどこを強調するかというのはその場面が今作で回収される広義の伏線ですよと種明かししているようなもので、すこし過剰だと思った。
序盤の幼少期からの仲間(尾到)が信を守る道中で力尽きて命を落とすシーン、故郷で尾到の帰りを待つ恋人(友里)が祈りをささげる様子との往還がしつこく、しつこいわりに観客は感情移入できるほど彼らと時間を共にしていないからポカーンとするしかないし、結局飛信隊の帰還で友里が尾到の死を知り彼を悼む場面は描かれず終いだったから、あれはなんだったんだと思った。信と尾到が最後の会話を交わすシーンも、夜の森だからずっと真っ暗で、画面にも面白みはなかった。話す内容の文脈的にも、死ぬ間際から次第に夜が明けていくくらいの工夫はしてよかったと思う。
それ以外は概ねとてもよかった。
「前回までは」が終わってすぐの龐煖との死闘では、羌瘣の〈呼吸〉による舞が久しぶりに披露され、そのアクションの小回りの利いた凄まじさに観ていてワクワクしたし、それと対比される王騎や龐煖の大振りの戦いも大迫力だった。騰の「ファルファル」も面白かった。
いちばんの白眉は、クライマックスのvs.龐煖戦で見せた、王騎将軍の取り乱さない激怒だと思う。IMAXで観たわけでもないのに、劇場が震えたかと思った(その激烈な感情を裏打ちする回想での摎の描写も、思慕の念が丁寧に伝わる描かれ方でよかった)。あの血が湧く怒号を聴けただけでも、わざわざ劇場に観に行けてよかった。そのあとの「将軍の景色」のシーンもよかった。
終盤、王騎が皆に事実上の遺言をのこすシーンでの騰は、原作よりも幾分か人間的に描かれていて、そこは評価が分かれるかもしれないと思った。個人的には、努めて淡々としたあの面構えをあくまで維持し続けて拳から静かに涙を流す騰も見てみたかった。
ラスト、信が全軍を率いて「帰還」するのはやりすぎだと思った(だって信は今作でほとんど活躍してないし)けど、なんかキングダム実写映画はここでひと段落するかもしれないらしいし、そう思ったら納得こそできなくても理解はできた。
IMAXで観ればよかったな。