Kuuta

シビル・ウォー アメリカ最後の日のKuutaのレビュー・感想・評価

4.1
予想以上に面白かった。久しぶりに池袋のIMAXで映画を見たが、音が凄まじいのでIMAXやドルビーアトモスがおすすめ。戦車の砲弾の音にちょっと聞いたことのない重みがあった。なんかグシャっとしていた

現代アメリカの風刺がたっぷり入ったコテコテのポリティカルサスペンスと思いきや、内戦の背景や経過は描かず、独立派がホワイトハウスに攻め込む最後の数日をカメラマン目線で追体験する乾いた仕上がり。ニューヨークの空撮に黒煙が重なり、そっけなく現れるタイトルに好感。荒廃したアメリカを車で旅するロードムービー要素が強い。

イギリス人のアレックスガーランドだから良かったのだろう。アメリカ人が撮ってたらもっとあれもこれもとなっていそう。過去作でやってきた近未来風刺+「28日後…」のようなポストアポカリプスものをベースに、109分にまとめている。

・被写体を追いかける記者のドラッギーな感覚が、戦場の恐怖と興奮に重ねられている。銃を構える兵士の後ろでカメラを構え、現実を撃ち抜く。

リー(キルスティン・ダンスト)が「私が死んだ時に写真を撮るか?」と新米カメラマンのジェシー(ケイリースピーニー)に聞くくだり、乗ってきた車が、画面手前のヘリの残骸が作るフレーム=銃口=カメラのスコープに囲まれる。狙い撃つ者はいずれ被写体になる。この精神の元、フレームアウト、フレームインが丁寧に考えられている。冒頭のある展開の後、流れに完全に置いていかれるジェシーと、気づけばフレームアウトして取材に向かっているリーの対比。それでもジェシーはリーを追いかけ、取材するリーの姿をカメラに収めている。この冒頭が後の展開を全て語ってしまっている

・誰が誰を殺しているのか分かりづらくしている作品だ。内戦の背景が描かれないのが一部低評価に繋がっているようだが、戦争中に相手は誰か?と白黒の峻別を問えば、兵士から「お前バカなんだな」と言われてしまう。

あえて深読みすれば、映画の一番最初に四方八方から聞こえるノイズが、内戦への伏線に当たるのだろう。戦争に言葉はなく、分断は理性が意味をなさないレベルに達している。切り取られた現実だけが広がる世界で、ジャーナリズムの何たるかを語る余裕はない。主人公たちにできるのは見ないふりをせず、シャッターを切るだけ。

終盤のリーはPTSDを発症しており、自身の仕事への無力感にも襲われている。対照的にジェシーはリーの役割を良くも悪くも受け継ぎ、父殺しの末に狂気の輪廻へ足を踏み入れている(中盤の三面鏡の場面が生きてくる)。ホワイトハウスのドア枠を背に、今のところはフレームの外側にいるようだったが、彼女が次の被写体になるのも時間の問題かもしれない。何とも残酷かつドライなまとめ方で、ここも好みでした。

・リーはマグナム所属だったという設定。マグナムは、スペイン内戦で兵士が撃たれる瞬間を撮った(とされる)ロバート・キャパが創設メンバーの団体。キャパはベトナムで地雷に巻き込まれて死んでいる。リーの存在が、カメラで撃つ者、撃たれる者の宿命を史実と結びつけている。

(キャパの「崩れ落ちる兵士」は反戦運動の象徴になったが、後にヤラセを指摘される。イメージ先行のフェイクニュースの時代と薄っすら重ねているのだろう)

・ヘリの残骸を撮影するくだりは、ガソリンスタンドで何も出来なかったジェシーに、止まった被写体から練習させようというリーの配慮を感じた。翌日の初の戦場では、ジョエルがジェシーの体を引っ張って、立ち回りを覚えさせている。何だかんだでみんなが彼女を育てようとしている、そのラストがあれ

・ホワイトハウスから車で脱出する場面、アメリカがここまで堕ちてしまった…という悲しさが湧き上がってきた。連邦議会襲撃のニュースを見た時のそれだった
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