このレビューはネタバレを含みます
テキサス、カルフォルニア同盟からなる西部勢力vs政府軍の内戦が続くアメリカでジャーナリストチームが14ヶ月取材を拒否している大統領への単独取材をするべく戦地の最前線を目指すロードムービー。最近調子のいい、A24が勝負しにきた過去一番の大作となった。大統領選挙を控えたこのタイミングの公開は正解だと思います。
終盤の戦地の最前線までは派手さは割と無いのだけど堅苦しい感じはなくロードムービーなので戦地近づくにつれポイントポイントで狂っているとも思えるような光景が次々と目の前に現れる。その感じは『地獄の黙示録』的ともいえる。今作はジャーナリストが主役なので武器を持っておらずその代わりに持っているものはカメラのみで対抗策が無い。だからヤバい奴に出くわした時の自分の命が相手次第になる緊張感はとんでもない。特にジェシー・プレモンスが演じた赤サングラスの兵士がとても恐ろしかったです。「どのアメリカ人だ?」というセリフも印象的で独自の偏った解釈のみで人の命を奪うことになんの抵抗もないキャラクターを演じきっていました。なんと元々この役をやる俳優さんがドタキャンしてキルスティンの夫のジェシーが急遽演じたとの事だが予告にも使われるほど印象的なシーンでした。あのシーンはドラマ『ウォーキングデッド』の二ーガンのバットで処刑を思わせるほどのハラハラ展開でした。
この映画は画も素晴らしく、内線で崩壊した街並みは現実で破壊されたようにしか見えず不思議でした。また、クリスマスの曲が流れるが狙撃手が狙ってくる異様な空間なんかも魅力的。映像美でいうと3人を助け撃たれてしまったサミーが車内から人生の最期に見た光景。森林火災なのだがそのサミーの目には美しく映り、こちらも感動してしまいました。
ラストにかけてホワイトハウスの大統領を追い詰めていくのだが、途中でリーがジェシーを庇い撃たれてしまう。普通の映画ならみんな駆け寄るはずなのにこの映画では誰も駆け寄らない。なんなら庇ってもらったジェシーすらその先に存在する状況を報道する事だけに執着している。不思議な展開でした。だがこの行動はリーが逆の立場だとしても同じだったと思います。それを分かっているからこそのジェシーの行動だったと思います。
そして大統領を追い詰めて最後にジョエルが大統領にインタビューした返答が「私を殺させないでくれ」。こう懇願してくる大統領はあっという間に射殺される。この最後のジャーナリストに対する一言が内戦によって失われていた報道の力というものを復活させたような言葉に感じました。