【Downfall】
数多の傑作を作り上げた映画スタジオA24が世界に警告を放つ衝撃作!
近未来、分断の果てに19の州が連邦政府から離脱し、内戦状態に陥ったアメリカ。
テキサス・カリフォルニア連合軍が首都まであと200kmの地点まで近づき、陥落も間近に迫った頃、ニューヨークに滞在する4人のジャーナリストが、14ヶ月一度も取材を受けていない大統領に単独インタビューを行うため、戦場を経由しながらワシントンD.C.を目指すロードムービー。
あらゆる悪意が剥き出しとなった世界で地獄の道筋を辿る、現代版『地獄の黙示録』な戦争映画だ。
戦場の臨場感が他の映画と段違い。
身を切り裂くような発砲音や、リアルを追求したミリタリー描写はもとより、内戦の原因となった物事の説明を省き、いきなり戦場に放り投げ出されるストーリー展開、敵味方の識別が不可能な混沌とした戦場に激しい銃殺表現と相まって、現世から切り離され黄泉の国へと誘う怨念のようなものを容赦なく叩き込んでくる。
これは旧ソ連の伝説の戦争映画『炎628』や、ゲーム史上最も第二次世界大戦をダークに描いたFPS『COD World at War』、そして戦争犯罪と人の狂気に深く切り込んだストーリーによりカルト的人気を誇るTPS『Spec Ops The Line』の雰囲気に近い。
特にクライマックスで描かれたワシントンD.C.攻防戦は、『WAW』の帝国議会議事堂での戦いのシチュエーションに似ていてとても驚いた。
https://callofduty.fandom.com/wiki/Heart_of_the_Reich
https://callofduty.fandom.com/wiki/Downfall_(campaign)
まさか現代戦、しかも架空の戦争を題材したハリウッド映画で、これほどの破滅的な空気を放つ作品が現れるとは。
『WAW』『Spec Ops』を初めてプレイした時に感じた、果てしない暴力のうねりを改めて思い起こさせてくれた。
本作は、戦場ジャーナリストの姿を通してジャーナリズムの意義を再確認する物語にも関わらず、21世紀のメディアの中核を成すSNSや掲示板、動画サイトといったネットメディアについては一つも言及されていない。
その代わりに描かれるのは、防弾ベストと防弾ヘルメット、そして昔ながらのフィルムカメラを装着したジャーナリスト達が、自分の足で戦場に赴き、写真という形で証拠を押さえる、かつてベトナム戦争でアメリカを打ち負かした昔ながらのやり方である。
20世紀まで情報の根幹を成したTVや新聞といったメディアの体制は、2010年代以降、全てSNSや動画サイトにとって変わられ、限りない悪意や真意のないデマによりその地位は失墜した。
現に、今やメディアにとってなくてはならない存在と化した旧Twitter、Xの価値は、イーロンマスクが就任してから8割近く減少したと報じられている。
https://www.cnn.co.jp/tech/35224513.html
今の時代は柔軟な公平性よりも過激なバズが求められる。
ネットと匿名の人々の登場によって報道の力は地に堕ちた。これは事実だ。
この映画が映し出すディストピアというのは、それがもたらした結果の一つでしかない。
劇中でジャーナリスト達が撮る戦場の写真一枚一枚からは、世間の暴走を止めることができなかったことへの無念と怒りが感じとれる。
これはジャーナリズムの復讐であり、制御不能となった21世紀の情報社会に対するカウンターパンチだ。
本作のラストシーンを飾るあの衝撃的な写真は、コロンビアの麻薬王パブロエスコバルが、アメリカの特殊部隊に射殺された直後に撮られた写真を真似ているのは間違いない。
https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Death_of_Pablo_Escobar.jpg#mw-jump-to-license
ここで重要なのが、主役のジャーナリストの一人を演じるワグネルモウラだ。
モウラは以前、Netflixドラマ『ナルコス』でパブロエスコバルを演じており、この物語では逆にモウラが大統領を追い詰める。
また、この映画におけるミニタリー描写は、『ブラックホークダウン』以降のハリウッド戦争映画や現代戦FPSのスタイルに酷似しているが、これまでの作品はその拳をアメリカの外に振り下ろしてきた。
だが、今回は今までの彼らのやり方を、彼らの手を通してそっくりそのままアメリカの責任者たる大統領に返している。
あらゆる面からのカウンターパンチである訳だ。
まあ、これは『BO』以降のCODがやらなくてはならなかった題材をA24が代わりにしているだけのようにも思えるが。
仮に2010年代に『COD CIVIL WAR』なんてFPSが制作されていたら、本作は存在しなかっただろう。
A24の最高傑作。
奪い去り、抹殺する暴力
来たりて見よ!