心地良い。「心の傷」を描きながらも、ショパンの旋律を通奏低音に軽やかな印象を与える新たなロードムービーの秀作。心の病、虐殺からの生存、離婚経験、各々が抱える個人の“痛み”をポーランドの街に刻まれた傷跡、ユダヤ人が抱える歴史的な傷と重ねながら、他人には決して分からない“痛み”に少しだけ向き合ってみようと静かに語りかける。
何よりキーラン・カルキン演じる主人公の従兄弟=ベンジーのキャラクターが素晴らしく、長らく愛されるキャラクターになると思った。人として魅力的だが、しばしその自由奔放な言動で他人を困惑させる事もある。その目の奥と白髪混じりの無精髭にどこか心の闇を感じる。そんなキャラクターを見事にキーラン・カルキンが演じている。彼は空港のソファから一歩も動いていない。しかしこのキャラクターは観客一人一人の人生を生き続け、彼にまた会いたいと、彼の未来に希望を感じさせる(感じたいと思う)。ベンジーにまた会いたいと思わせてくれる。