荒野の狼

ノリャン―死の海―の荒野の狼のレビュー・感想・評価

ノリャン―死の海―(2023年製作の映画)
4.0
『ノリャン -死の海-』(英語題名 Noryang: Deadly Sea)は、2023年公開の153分の韓国映画。丁酉倭乱(慶長の役)における1598年12月の露梁(ノリャン、ろりょう)海戦を描いた史劇アクション映画である。イ・スンシン(李舜臣)を主人公の三部作の最終作だが、時系列は第二作作『ハンサン -龍の出現-』壬辰倭乱(文禄の役)1592年7月の閑山(ハンサン)島海戦。第一作『バトル・オーシャン 海上決戦』1597年10月の慶長の役の鳴梁(めいりょう)海戦。本作の順になる。文禄の役は1592年4月からなので、通算で7年の戦争であるが、本作でも何度か朝鮮は7年間苦しんだといった表現がされており、文禄・慶長の役と二つに分けた表現はしていない。本作でユニークなのは、明が朝鮮軍と連合軍を形成していることで、戦争が三国の闘いになっていること。明水軍都督の陳璘(ちんりん)と、その副将の鄧子龍(とうしりゅう)が個性的。

また、小西行長が建てた順天倭城(じゅんてんわじょう)も登場し、日本の武士が日本の城を朝鮮半島に建てて、日本の甲冑で外国に侵略しているというシーンは、まず映像作品として目にすることは少ないので貴重。武士が外国で戦闘に参加するというのはSF映画の設定のように感じられるが、日本の侵略の歴史なので重く受け止めたい(これに較べると、本作の細部が歴史的事実ではなくフィクションであることは小さな論点)。

本作の前半では小西行長が敵役の大将かと思わせるが、中盤から後半にかけて、小西を助けに海戦に赴く島津義弘が不気味で強い敵役となる。島津義弘は1535年生まれであるので、本作の時代背景では63歳であるが、知力だけでなく、鄧子龍との殺陣では瞬間移動かと思わせる俊敏さを見せ日本刀で相手の首を切ったりと残虐性をも見せて、長年生きた妖怪のような雰囲気。戦況を遠巻きに眺める小西に対して、島津はイ・スンシン相手に一歩も引かない武将らしさを見せている点では、第一作の来島通総(くるしま みちふさ)と、その怪奇性も含めて共通している。

本作はイ・スンシンの最後の戦いまでが描かれており、三部作の最後にふさわしいが、問題は、最終盤が冗漫である点。とくに、イ・スンシンが陣太鼓を叩く場面から後が長く、ラストのエンディングロールが終わった後も、李氏朝鮮の第15代国王の光海君(クァンヘグン、こうかいくん)が登場するシーンがある(エンディングで視聴をやめてしまわないように注意)。

露梁海戦の名前は、南海島(ナメド)と半島本土との間にある露梁海峡に由来するが、1973年に全長660mの南海大橋が開通した。地理的には、第一作が朝鮮半島の南西・珍島と花源半島との間にある海峡、第二作が南東で釜山の近く巨済島と本土・トンヨン(統営)市の間にある見乃梁(견내량=キョンネ海峡) 海峡)で、本作はその中間点にあたる。ちなみに、韓国の島の面積の順位は、一位 済州島、二位 巨済島、三位 珍島、四位 江華島、五位 南海島。
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