ノラネコの呑んで観るシネマ

テレビの中に入りたいのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

テレビの中に入りたい(2024年製作の映画)
4.3
これはユニーク。
1996年、7年生の主人公オーウェンは、9年生のマディから、ティーンの女子向けダークファンタジー番組「ピンク・オペーク(PO)」を紹介され、夢中になる。
「PO」はサマーキャンプで知り合った対照的な性格の二人の少女が、月に住むMr.憂鬱が送り込む 様々な怪人と戦い、街の平和を守るというもの。
オーウェンは自分がノンバイナリーであることを意識し出す年齢で、マディはレズビアン。
二人の住む田舎では、居場所が無い。
さらに理解者であったオーウェンの母が亡くなり、厳格な父とは会話もない。
やがて二人の中では虚実が混濁し、自分たちは「PO」の主人公で、テレビの中の出来事こそが現実だと思い込んでゆく。
やがてマディは街から姿を消し、実家にとどまったオーウェンは、無理矢理にでも「普通」に拘るが、心と体はますます乖離し、少しずつ彼の人格を蝕んでゆく。
中盤を過ぎると大人になったオーウェンは鬱が進行して、「信頼できない語り部」となり、彼視点の現実として語られる物語も、どこまでが虚でどこからが実なのか判別できなくなってゆく。
自らの性的なアイデンティティに悩むティーンの若者と、「普通」以外を許さない社会のギャップが生み出す、何ともダーク&ビターなテイストで、メランコリックな寓話劇。
1996年から2030年の34年間に、ある個人の中で起こった、痛々しい抑圧の物語だ。