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イベリン 彼が生きた証のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

イベリン 彼が生きた証(2024年製作の映画)
4.0
【拡張された肉体による豊かな人間関係】
動画版▼
https://m.youtube.com/watch?v=5A1QeXZJ4AQ&t=4s

『画家と泥棒』で注目されたベンジャミン・リー監督の新作『イベリン』がNetflixにて配信となったので観た。

『画家と泥棒』は元々短編企画だったものの、画家と泥棒が親密で怖い共依存の関係性になっていくのを目の当たりにし、長編化したもので、その語り口に惹かれた。

本作では『バーチャルで出会った僕ら』や『ニッツ・アイランド』と仮想空間でのコミュニケーションを捉えるドキュメンタリーが増えている中、一石を投じることに成功している。

難病を抱え、幼少期から車椅子生活だった青年。両親は不自由さを抱える彼に自由を与えようどゲームを好きなだけやらせる。その結果、引きこもりに近い状況となり、他者との関わりを遮断しているように見える日々が続いた。

彼が25歳で亡くなり、哀しみに暮れる両親は遺されたPCを開く。ブログサイトにパスワードを入力し、訃報を伝えると、たくさんの方々からメッセージが届く。実はMMORPG"World of Warcraft"で「探偵」として有名人となっており、多くのユーザーのカウンセラーとして活動していたのである。

本作は、ゲームの会話ログを元に彼がユーザ名:イベリンとして振る舞っていた時代を再構成すると共に、関係者が生身の姿で取材に応じる様を結びつけていく。

現状の関連ドキュメンタリーは物理/仮想を分けて考えている傾向があり、物珍しさから仮想空間内での取材に力点が置かれている。

しかしながら、本作はVTuberが配信者とモデルの重ね合わせによる感情をやり取りするものであるように、ゲーム内での振る舞いと物理的な振る舞いを対等に描こうとしており、最新の技法といえる。

また、ドキュメンタリーにおける再現ドラマは実写で行うことがほとんどだが、アバターが遺されているので、ゲーム内で振る舞いを再現し、その振る舞いとプレイヤーの感情を比較したり、ゲーム外での出来事を捉えることで多層的な感情を掬い上げている。

それにより、難病で対人関係が希薄に見える存在がゲームコミュニティで大人社会同様の嫉妬、恋情、拗れ渦巻く人間関係の問題とぶつかり成長していく様に心打たれた。

流石のベンジャミン・リークオリティだ。
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