あーや

カンダハールのあーやのネタバレレビュー・内容・結末

カンダハール(2001年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

パラシュートを付けた義足が青い空から降ってくる。落ちてくる義足を追って一目散に走ってくるのは、足を無くした人たち。創られた映像とは言え何とも異様な世界です。モフセン・マフマルバフ監督作品「カンダハール」
カナダに住むアフガニスタン人女性のナファスが「日食の日に自殺をする」と手紙を送ってきた妹を救うため、彼女のいるカンダハールへ旅をするという話。
背景に不思議な音楽が流れる旅の道中、ナファスは様々な人たちに出会う。強かに浅はかに今日を生き延びようとする、同情は出来ないけれど責めることも出来ない人たち・・・。
盗賊に襲われて妻達子供達から金品を奪われても祈るばかりで何もしない父親。彼は「慈悲深いアッラーに感謝しよう」と何度も繰り返している。小さい子供たちが集まる神学校では全員が胡座をかき、身体を前後に揺らしながらコーランを音読している。時折教師が「剣とは?」「カラシニコフとは?」と子供たちに質問して答えを暗唱させる。悪と戦う術のみを子供たちに刷り込んでいるこの場所にアッラーは不在のようです。
女性たちは皆頭の先から足の先までブルカで覆い、井戸水で洗濯をしている。ただブルカの下はブレスレットをジャラジャラ身につけ、口紅やマニキュア等の化粧もバッチリだ。目元が大きめのメッシュになっている以外どこも露出していないブルカに全く馴染みのない日本人にとっては奇妙な格好です。
まだまだ他にも。医師団にしつこく義足をせがんで手に入れた片手の無い男は義足を転売しようとし、ガイド役を買って出た男の子は砂漠で見つけた白骨死体から指輪を奪いナファスへ「1ドルで買って!」とせがむ。
この地域の人たちが生きるためどれだけ人を騙して日常を必死に生きているのかが分かります。そこら辺に地雷が埋まっていて、いつ手足のみならず命を失うかわからないような場所で生きているのですから平和な国で暮らす私たちの常識なんて通じないですよね。。
印象に残ったのはやはりラスト。タリバンに見つかったナファスの旅は終わってしまうのか?ナファスは無事妹のもとにたどり着けるのか?何もわからない。ただブルカの下から落日を見つめるだけ。結末を描かないからこそ今もアフガニスタンの内戦は続いているような気持ちにさせられる。映画の中でナファスの旅が終わらないように、現実でこの内戦には終わりがない。本作は旅がテーマのロードムービーではなく、アフガニスタンの現実とアフガニスタンでの人々の生き方を映している。結末のないラストはつまり、アフガニスタンという国が選んでいくであろう未来が重なっているのでしょうか。そこにはアフガニスタンで生きる人たちの「希望」が含まれていると信じたい。
あーや

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